第24話 理想のダンジョン

あれから毎日ダンジョンの形をまとめていった。

そして今日はついに、出来上がった場所を見に行く日なんだ。


「ちょっと楽しみだね」

「よし、ワープゲートオープン!」


ダンジョンコアに魔力を込めると、目の前に光の門が現れる。

一歩踏み出すと、そこには石のレンガを組み合わせて作ったような、ゲームでよく見るタイプのダンジョンが広がっていた。

それを見て、思わず感動がこみあげてくる。


「うんうん。なかなかいい感じじゃないか」

「ふーん。普通のダンジョンだね」


メリアにはあまり刺さらなかったみたいだけど、やっぱり自分で作ったものが目の前にあると感動してしまう。

入口からまっすぐな廊下が続き、その先の扉を開くとちょっとした部屋が広がっている。部屋の奥には下への階段が続いていた。

見た目はそれなりに出来ていると思う。

階層も地下3階まであるから、とりあえずダンジョンとして最低限の形は整っているはずだ。


でも、これだけじゃまだ足りないよな。


「あとは、モンスターとお宝か……」


お宝は後で考えるとして、まずはモンスターをどうにかしないとな。

植物なら作れるけど、さすがに魔法で生命を作れる気はしない。

なのでそのための方法は調べてある。


昨日のうちに、リビングで本を読んでいた母さんに聞いてきたんだ。


「お母さん、ちょっといい?」

「どうしたの?」

「ダンジョンにモンスターを置きたいんだけど、どうすればいいのかな」


母さんは本を閉じて、にっこりと微笑んだ。


「まあ、もうそこまでダンジョン制作が進んだの? ずいぶん早いわね」

「ダンジョン作るの楽しいから」

「モンスターを配置する方法は主に2種類あるのよ」

「2種類?」

「ええ。召喚するか、契約を結ぶか。もちろん、野生のモンスターを連れてくる方法もあるんだけど……」


母さんは少し考えるように目を細めた。


「広大なダンジョンだと、モンスターが勝手に住み着いて群れを作ることもあるわ。でも、レイちゃんの場合はまずは召喚がおすすめよ」

「召喚かあ……。でもモンスターを呼び出すなんてやったことないよ。難しそう」

「ふふ。大丈夫よ。レイちゃんならすぐ覚えられるわ」


そうして母さんに、モンスター召喚の方法が書かれたダンジョン魔法の魔導書を貸してもらったんだ。




「よし、さっそく召喚魔法を使ってみよう」


まずは基本中の基本、初級の雑魚モンスター、スライムを召喚することにした。

母さんに教わった魔法陣を床に描き、そこに魔力を込めていく。


「えーと、こう……そして、こうして……」


魔法陣が青白い光を放ち始める。

手のひらに魔力を集中させながら、スライムの形をイメージする。透明で丸くて、プルプルしていて……。


「来い!」


魔法陣から光が溢れ出し、その中心に半透明の丸い物体が現れた。


「できた!」


召喚というより生成に近い感覚だったけど、とにかく生み出すことができた。

青みがかった半透明の体は水みたいで、プルプルと揺れている。


「わぁ! かわいい!」


メリアが興味津々で近づいていく。すると、スライムは小刻みに震え始めた。


「へぇ~、こんなに柔らかいんだ!」


メリアはスライムの周りをぐるぐる回りながら、時々つついて遊んでいる。

でも、スライムの様子を見ていると……。


「あのさ、メリア。それ、怯えてるんじゃない?」

「え? そうなの?」


スライムは震えながら、少しずつメリアから離れようとしている。

まるで「僕、悪いスライムじゃないよ」とでも言っているみたいだ。

でもメリアは全然気にせずに、何度もつついたりして遊んでいた。

まあ、それでスライムがやられることもなさそうだし、とりあえずは大丈夫かな。


「次はスライムをダンジョンコアに登録しないとな」


母さんに教わった通り、スライムとダンジョンコアを魔力で繋ぐ。

これで位置を把握したり、倒されたかどうかもすぐにわかるようになるはずだ。


「よし、じゃああと2体作って、っと」


召喚魔法を繰り返し、同じような大きさのスライムを作り出す。

1階層に1体ずつ、合計3体を配置した。


「1階層にスライムが1匹だけかぁ……ちょっとしょぼいかな」


まるでチュートリアルの洞窟みたいだ。

でも、最初から完璧を目指すんじゃなくて、まずは下手でもいいから形にすることが大事なんだ。

モンスターの数や種類はこれから少しずつ増やしていけばいい。


「コアの部屋で確認してみよう」


ダンジョンコアの前に立つと、魔力で作られたモニターが浮かび上がる。

そこには3つの黄色い点が表示されていた。各階層に配置したスライムの位置を示しているんだ。


なんだかゲームのミニマップみたいだな。

懐かしい気持ちになりながら、さらにコアに魔力を注ぎ込む。

モンスターをコアに登録して、さらに色々な機能を付与させた。


よし。これで倒されても自動で復活するようになったはずだ。少なくとも魔導書の説明にはそう書かれている。

ダンジョンコアって本当に便利だな。


ゲーム会社で働いていた頃を思い出す。

プレイヤーの行動を管理したり、モンスターの配置を決めたり。今やっていることは、まるでゲームの制作みたいだ。


「今度はどんなモンスターを作ろうかな……」


俺は新しいアイデアを考えながら、モニターに映る黄色い点を眺めていた。


ゲームのダンジョンには色々なタイプがある。


ストーリーの進行上、不可欠なダンジョン。

不気味な雰囲気で冒険者を驚かせるためのもの。

宝物を隠して探させるタイプのもの。

上級者が腕試しのために挑む、超高難度のダンジョン。


色々なタイプがあるだろう。

でも俺は、ダンジョンというのは、プレイヤーにクリアしてもらうためのものだと思うんだ。

前世でゲームを作っていた時もそう考えていた。プレイヤーが楽しんで、最後まで遊んでくれること。それが何より嬉しかった。


程よい難易度で、ギリギリクリアできる達成感がいいんだよな。

やっぱり根がゲームプランナーだからかもしれない。

ユーザー……いや、冒険者に楽しんでほしい。そういうダンジョンを作りたいんだ。

きっとそれは、かつてのゲーム制作と同じように、プレイヤーの気持ちを考えながら作り上げていく作業になるはずだ。


「ゲームでもダンジョンでも、根本は変わらないんだな」

「ゲームって何?」

「えーっと、まあ、ダンジョンで遊ぶおもちゃみたいなものかな」


挑戦する人の目線に立って、楽しさを追求する。

それが俺の目指すダンジョン作りなんだ。


次は宝箱を作る番だ。

アイテム生成魔法で、見た目の豪華な木の宝箱を作り上げていこう。

まずは魔力で木の素材を形作り、金色の装飾を施していく。

開閉部分には精巧な機械仕掛けを組み込んで、開けた時の感触にもこだわった。


中に入れる自作のポーションも、新しく作り直すことにした。

透明な小瓶を魔法で形成し、中に青く輝く魔力を注ぎ込んでいく。

一つ一つの工程に慎重に魔力を込めて、効果の高いポーションを精製していく。


できあがった宝箱とポーションを眺める。

見た目は悪くないと思うんだけど、ダンジョンの一番奥の宝がポーション一個というのは、あまりにもしょぼいかもしれない。

でも、5歳の子供が作ったんだから、まあ大目に見てもらうしかないだろう。


そのかわり、宝箱には小さなサプライズを仕掛けることにした。

細工を施した宝箱の裏側に、もう一つの仕掛けを忍ばせる。

前世でゲーム会社のプランナーをしていた時のように、プレイヤーに楽しんでもらうためのサプライズだ。


当時は仕様や工数の問題で、アイディアの大半が没になっていた。

でも、この世界で作るダンジョンなら、思いついたことを全て形にできる。

自由に作れることの楽しさに夢中になりながら、俺は宝箱の最後の調整を進めていった。


まあ、それ以前にこんなところのダンジョンなんて誰も来ないだろうけど。

こんな奥まった森がある場所では、見つけるのも難しいだろう。

そろそろ人間の街の近くに移動したほうがいいのかもしれない……。


でも母さんが聞いたら、絶対に反対するだろうな。

人間の近くなんて危険すぎる、あと1000年は待ちなさい、なんて言われそうだ。

そんなことを考えていると、突然ダンジョンコアから鋭い音が響いた。


「レイ、誰か来たよ」

「えっ?」


メリアの声に慌ててモニターに目を向けると、そこには赤い点が二つ。

ダンジョンの入り口から、二人の人影が入ってくるところだった。

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