第22話 成長するダンジョン

ダンジョンコアの部屋を改造するのが楽しすぎて、気がついたら3か月が経っていた。


「よーし、これでいいかな」


俺は額の汗を拭いながら、新しく作ったダンジョンの部屋を見回した。

壁とか床を作って、部屋の形を決めて、家具を置く。まるでねんどみたいに、思った通りの形に空間を作れるようになったんだ。

三か月前は全然できなかったことが、今ではスイスイできるようになってる。


まだ母さんのようにはできないけど、それでもだいぶ慣れてきたと思う。

感覚をつかむのが早く感じるのは、たぶんずっとダンジョンとして造られた家に住んでいたことが大きかったんだと思う。

ダンジョンなのに、家にいるのと変わらない感覚なんだ。

それこそ生まれた時から過ごした我が家のように、自然とダンジョンをイメージできる。


これも母さんたちが俺のことをずっと大切に育ててくれたからだ。

これまでは、なんで家の外に出してくれないんだろうって不満に思うこともあったけど、今ではそれにも感謝している。

親の愛情の深さって、いつだって後になってから分かるものなんだな。


「なにかお礼がしたいよね」

「そうだね。でも何がいいかな?」


たまにその件について、メリアと二人で相談している。

まだいい案は浮かばないけど、まあ焦ることもないしね。何か思いつくまでゆっくりダンジョン魔法を練習していこう。


あれからたくさんの家具を作ったり、小物を作ったりしてきた。

ベッドも作ったから、ここで寝ることもできるんだけど、そうすると母さんも父さんも悲しそうな顔をするから、ちゃんと家に帰って寝ることにしている。


メリアの部屋も作ったんだけど、いつも俺の部屋にいるんだよな。

それどころか、俺の部屋に自分の私物を作るよう要求してくるようになった。


「レイ、鏡が欲しいな」

「タンスも作って?」

「あ、化粧台もいいかも!」


「はいはい、わかりましたよ、お姉ちゃん様」


鏡とかタンスとか、俺の部屋なのにメリア用の小物や家具がどんどん増えていってる。

俺が弟だからって、お姉ちゃん強権が発動されるんだよね。

まあ練習になるから、俺も気にしてないけど。部屋が狭くなったらいつでも広くできるし。


おかげで色々できるようになった。

けど、食べ物を作るのはまだ難しい。

水や果物なら出せるんだけど、植物は種がないと作れないし、クッキーやパンのような加工して作る食べ物は、直接出そうとしても全くできなかった。


「植物魔法を極めれば、何もないところから木々を生やせるようになるのじゃよ」


おばあちゃんはそう言っていたけど、まだまだその域には到底及ばない。

この分野も、もっと修行が必要みたいだ。


ちなみにメリアにはダンジョンを作れなかった。

ダンジョンコアに魔力を注いでも、何も起きなかったんだ。

俺のコアだからってのもあるみたいだけど、それ以上にメリアはダンジョンを作るイメージがわからないらしい。


「アタシにこういう小難しいのは向いてないの」


メリアは気にした様子もなかった。

初めからダンジョンを作ることには興味がないらしい。


「その代わり、アタシが魔法の練習をする場所が欲しいな」

「魔法の練習場?」

「そう! もっと力いっぱい魔法を使ってみたいんだ。魔法のおばあちゃんの家だと、近くの森とかに燃え移って火事になっちゃうかもしれないじゃない。それに、そういう場所があればレイも使えるでしょ?」


確かに俺も魔法の練習をする場所は欲しいと思っていた。

これは良いアイデアかもしれない。


調べてみると、ダンジョンの壁には、魔法で壊れにくくする効果を付与できるみたいだった。

なるほど、戦いでダンジョンが崩落したら大変だからな。

これから本格的にダンジョンつくりを始める前の練習にもちょうどよさそうだ。


俺はさっそくダンジョン魔法を使って魔法の練習部屋を作った。

でも作っているうちに、どんどん凝った作りになってしまったんだ。

ただの部屋と的だけじゃなくて、動く的を作ったり、まるで本物のダンジョンみたいな感じにしてみた。


「できたよ!」

「へー、さすがレイすごいね。もうできちゃったんだ」

「ここならメリアが本気で炎魔法を使っても平気だよ」


そう思ってたんだけど……。


「やった! 実は今まで一度も本気で魔法って使ったことなかったんだよね」

「……えっ?」


今まで見たメリアの魔法に合わせて作ったんだけど……。

止める前に、メリアが両手を前に突き出して呪文を唱えた。


「炎よ、いっぱい出ろーっ!」


とんでもなく巨大な炎の玉が出てくると、せっかく作った的を全部破壊し、最後には天井を突き破って外に出ていった。

その先はどこかの森になってて、燃え移った危うく火事になるところだった。


「ごめーん!」

「水魔法を練習してて良かった……」


急いで水魔法で消火したから平気だったけど、本当に冷や汗が出た。

ダンジョンの壁を強化する方法は、実はまだよくわかってないんだよね。

ただ魔力を込める量を増やすだけでも大丈夫そうだけど、それだとメリアの魔法は防げそうにない。改善が必要だな。


「あれ? この上の森、見たことないね」

「メリアも知らない場所?」

「アタシも見たことないよ。村の近くじゃないみたい」


ここがどこなのか探検してみたい気持ちはあるけど、あまりにも広そうだから、今はそのままにしよう。

その代わり、俺が魔法の練習をしている間、メリアが外に出てるみたいだった。

危なくないか心配だったけど……。


「大丈夫だよ! 可愛い動物がいっぱいいるの!」


楽しそうに教えてくれた。

そういえば、メリアの部屋には俺が作らされたぬいぐるみがたくさん置いてある。

動物図鑑を指し示して作らされたのが、ギガントベアーとか、ジャイアントワームとか、そういうのばかり。

意外とゲテモノ好きみたいなんだよね。

そんなメリアの言う「可愛い動物」って……。


「この間はおっきくて赤いトカゲの赤ちゃんがいてね! 炎とかも吐いてたんだよ!」

「それってドラ……うん、なんでもない。あまり考えないようにしよう」




あれから魔法の練習を続けてるけど、すぐに魔力が切れるのが効率が悪い。

特に今日は、天井を修復したせいで魔力を使い果たしちゃった。

そんな頃合いをまるで見計らったかのように、母さんがクッキーを持ってきてくれた。


「あら、魔法の練習部屋を作ったの? 動く的に、対魔力の効果を付与した壁まで! 本当にすごいわね。天井だけは妙に作りが荒いみたいだけど……」

「あはは……」


あとから補強して直したから、そこだけ材質が違うみたいな感じになっちゃったんだ。

いちおう見た目だけは同じになるように表面は均したつもりだったけど、さすが母さんだ。すぐに見抜かれたてしまった。


「でも、疲れてるみたいね。おかつにクッキーを持ってきたからいったい食べてね。魔力も回復するのよ」

「ありがとう!」

「おばさんのクッキーアタシも大好き!」


母さんのクッキーは一口食べると、魔力が戻っていくのを感じる。

体にじんわりと魔力が回復していくんだよな。


ん? 待てよ。

これを真似すれば、魔力を回復させるポーションが作れないかな?


クッキーみたいなお菓子はまだ作れないけど、水魔法でポーションを作ることだったらできるはずだ。

アイテム生成魔法にもそんな魔法があったし。


さっそくクッキーの作り方を母さんに教えてもらった。

どうやら魔法でクッキーを焼いてるみたいなんだけど、その時、クッキーの生地に回復魔法を付与してるみたいだった。


回復魔法はまだあまり練習してないけど……。

魔力を解析して、同じようなものを作れないか試してみることにした。


最初はうまくいかなかった。

だけど何度も何度も繰り返すうちに、それっぽい効果のポーションができるようになった。


でも問題がひとつあった。

魔力を回復するポーションを作るために、それ以上の魔力を消費してしまうんだ。トータルではマイナスになっちゃう。


うーん。まあいいか。これも修行だと思えば。


それでもいつも以上に魔力を使う練習にはなるから、しばらくはこれで魔力量を増やすことにした。


まだまだやりたいことはたくさんあるけど、時間が足りなくて実践できない。

ああ、この楽しい忙しさ、社畜時代を思い出すな。残業ばかりの仕事でも、仕事自体が楽しければ苦にならなかった。


今考えれば、いわゆるやりがい搾取というものだったのかもしれない。

でも、楽しいならそれでいい!

辛く苦しいのを我慢しながらやるよりは、何倍もマシだ。


「また新しいの作ってるの?」


魔力の回復ポーションを作っていると、メリアが遊びにやってきた。


「うん。これを飲めば消費した魔力を回復できるようになるんだ」

「へー、便利そう。これがあれば遠慮せずにもっとすごい魔法が使えるようになるね」

「え? もっと?」


そのことを深く聞く前に、メリアが魔法を唱える。


「炎よ、いっぱいいっぱい出ろー!」


とんでもなく巨大な炎の玉が、強化したばかりの天井を突き破って外に出ていった。

もちろん外の森は大惨事だ。


「ごめーん!」

「もっと強化魔法の練習をしないと……」


それから水魔法の練習も必要だ。


「メリアも水魔法を覚えてよね」

「えー、あれ苦手なんだよなー」


メリアは炎魔法が得意だからな。

水は苦手なんだろう。だけど毎回森を火事にされたらたまらないので、何とか覚えてもらわないと。

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