第21話 ダンジョン魔法を極めたい

「よし、今日はベッドを作ろう」


ここ最近、中級魔法とダンジョン魔法の練習を続けてきた。

最初は洞窟のような部屋だったけど、今では家と同じような内装に変えることができたんだ。

白い壁に木目調の床、天井に埋め込んだ光水晶からは柔らかな光が差し込んでいる。


ダンジョン魔法の練習を兼ねて、少しずつ部屋の中を住みやすく改造してきたんだ。

本棚には魔導書や絵本を並べ、その横には机と椅子。食器棚には土魔法で作った皿やコップなどが並んでいる。

最初は歪な形ばかりだったけど、練習を重ねるうちに上手くなってきた。魔法の腕が上がっていくのがはっきりと実感できる。


でも、まだ部屋の入り口は作れていないんだよな。

今は毎回、ダンジョンコアを使ってゲートを開けないと入れないんだ。

青く光る入り口は綺麗だけど、やっぱり普通の入口も欲しい。毎回ゲートオープンするのも大変だしな。


だけど今日の目的はそれじゃない。

今日はベッドを作りたいんだ。


「さて、今度こそ……」


机に向かいながら、これまでの失敗を思い返す。

ベッド作りは何度も挑戦したけど、どうしてもうまくいかない。

形を作るところまでは良かった。でも、肝心の布団がふかふかにならないんだ。

まるで古い合成繊維みたいにギシギシと音を立てて、とても眠れそうにない。


メリアに試してもらった時は、「う~ん」と言いながら首をひねっていた。

いつも俺に優しいお姉ちゃんのメリアが黙るくらいだから、相当な失敗作だろう。

実際自分で寝てもいまいちだったしな。


ダンジョン魔法を使えば、食器や壺みたいな単純な形のものは作れるようになった。

でも、布団みたいな複雑なものはまだ難しい。

昨日も家のベッドに寝転んで、その感触を一つ一つ確かめてみた。柔らかな布地の感触、綿のふんわりとした弾力、重なり合う生地の層。

頭の中でイメージを組み立てては、何度も何度も試してみる。でも、できあがるのは固くて平たい、まるでベニヤ板のような代物ばかり。

どうやったらふかふかのベッドを作れるんだろう。


「そういうときはアイテム生成魔法を使うとよいのじゃ」


おばあちゃんの家で修行していた時に相談したら、そう教えてもらった。

むしろ、初級魔法だけで物を生成しようとする方が普通ではないらしい。

できないことはないけど、とても面倒くさいって言ってた。

自分で苦労して作り出そうとする俺のやり方が特殊だったみたいだ。


なのでアイテム生成魔法の魔導書を借りて勉強してみた。

試しにいくつか使ってみたいけど、物を成型したり、切ったり、くっつけたり。それぞれの工程に特化した魔法があって、とても便利だった。

土魔法で石を生み出し、生成魔法を使って削って磨けば、あっという間にお皿ができあがった。

自分のイメージだけで具現化するよりはるかにきれいだし、少ない魔力で精密に作ることができるんだ。


植物魔法と加工魔法を使って、今度は応用してみよう。

頭の中でイメージを浮かべ、それを魔力にして放出する。

地面から芽が生えてくると、それは椅子の形の気に成長した。そのまま枝を伸ばしてテーブルに成長する。最後には樹の中にある家まで再現してみせた。


「うわー! レイすごい!」


メリアが目を輝かせて見ている。


「アタシの家みたいだね!」

「ほっほっほ! なるほどのう」


おばあちゃんが目を細める。


「いやはや。何も教えておらぬのに、一時間もたたずにこれほど使いこなすとは」


おばあちゃんは楽しそうに笑いながら続けた。


「便利な魔法を覚える前に、自分で初級魔法を使って色々と研究をしたのが良い方向に働いておるのじゃろう。お主にはすさまじい魔法の才能があるが、本当に凄いのは、努力の才能かもしれんの」

「楽しいからやってるだけなんだけど」

「レイってすぐ魔法の練習するもんね。いつも楽しそう」

「好きこそものの上手なれ、じゃの。苦を苦と感じぬのも才能ということじゃ」


メリアがとなりで自慢気に頷いている。

まるで「アタシの弟はすごいでしょ!」とでも言いたそうだ。


「それにしても、おばあちゃんにはたくさんいろんなことを教えてもらってるのに、まだ何もお礼ができてないんだけど……」

「もう十分じゃよ」


おばあちゃんは穏やかな笑顔を浮かべる。


「これほどの才能を間近で見させてもらっておる。それだけで十分じゃよ。もしまだ何かお礼がしたいというのなら、お主が成長した姿を見せておくれ。いったいどれほどの偉業を為すのか興味があるのじゃよ。儂が死ぬ前にの」

「え?」

「まあ儂はあと10000年は生きるつもりじゃがの!」


おばあちゃんの豪快な笑い声が部屋中に響く。

メリアも思わず吹き出してしまった。



そうしてアイテム生成魔法を覚えた俺は、さっそくベッド作りに再挑戦することにしたんだ。


「今度はどんなの作るの?」


メリアが椅子に座って、楽しそうに見ている。俺が魔法を使うのを見るのが好きらしい。


「魔力の動きが綺麗なんだよ。心地いいっていうか……見てるだけで楽しいの」


そう言って、メリアはじっと俺の手元を見つめている。

そうやってじっと見られるとちょっと緊張するけど……。

集中できないとうまくいかない。俺はいったんメリアのことを忘れることにした。


最近分かってきた。

ベッドは様々な要素を組み合わせないとうまく作れない。

今までの修行の集大成として、ちょうどいい挑戦になりそうだ。俺は集中して魔力を整えていく。


これまでの練習でわかってきたことがある。

ダンジョン内でアイテムを作ろうと思う時、ダンジョン魔法だけで作ろうとするからダメだったんだ。

まずは土魔法で基礎の形を作り、植物魔法で綿や布を作っていく。マット、シーツ、かけ布団に枕――一つ一つのパーツをアイテム生成魔法を使って丁寧に作り上げていく。

出来上がった材料を、最後にまとめて合成させる。

イメージするのは、家にあるふかふかのベッド。あたたかくて、安心できて、ぐっすり眠れるような……。

光が消えると、そこにはふかふかのベッドが姿を現していた。


「わぁ!」


メリアが飛び上がって、さっそくベッドに飛び込む。


「家のベッドより気持ちいいよ!」


よし、成功したみたいだ。

思わず誇らしい気持ちになった。


作り上げたベッドは、最後にダンジョンコアに登録する。

これでダンジョンの一部として認識され、コアで管理できるようになるんだ。

登録さえすれば、このベッドをいくらでも生み出せる。


「うーん、でもいらないかな」

「せっかく上手くできたのに」

「俺とメリアの分の二つで十分だよ」


メリアは小さく笑って、ベッドに腰掛けたまま足をぶらぶらさせている。


「そっか。レイの部屋だもんね」

「うん。たくさんあっても使わないし」


窓のない部屋に、二つのベッドが並ぶ。

今はまだ不完全なこの部屋も、少しずつ形になってきたかな。

これでそろそろ次の計画に進めるはずだ。


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