第15話 ダンジョン魔法
「お母さん。魔法を教えて」
俺たちはリビングで編み物をしている母さんに直接頼みに行った。
俺たちの頼みを聞いて、母さんはにっこりとほほ笑んだ。
「もちろん危ないから駄目よ。前にも言ったでしょ」
きっぱりと断られてしまった。
でも予想通りだ。
そう言われることは予想してたから、ちゃんと対策を立ててある。
「実はお母さんに見せたいものがあるんだ」
「あら、なにかしら」
深く息を吸って、身体強化の魔法を使う。
体の中を魔力が巡るのを感じながら、リビングに置かれていた本棚を持ち上げた。
母さんの目が見る見る大きくなっていく。
「まさか……身体強化の魔法はまだ教えてないのに……」
「メリアを見てたら気が付いたんだ。メリアの力があんなに強いのは、魔力で体を強化してるからだって」
「やっぱり……もう魔力が見えてるのね……。だからって、見ただけで、使い方まで理解するなんて……」
呟きながら、じっと俺の体を見つめている。
体を動かす度に変化する魔力の動きを、魔法使いとしての目で確かめているのかもしれない。
「しかも、その使い方……まるで生まれつき知っていたかのように自然ね……」
つぶやきながら俺のほうに近づいてくる。
そうして俺の目の前まで来ると、急に抱きしめてきた。
「レイちゃん、あなた本当に……本当に凄いのよ! やっぱりうちの子は天才だわ!」
抱きしめながら俺の頭をしきりになでる。
普段は優雅で落ち着いているのに、今の母さんは我を忘れて喜んでいるみたいだ。
「これってそんなにすごいんだ」
「ええ、そうよ。魔導書もなしに自分で魔力の使い方を見つけるなんて、お母さんには一度もできたことがないわ」
「じゃあこれでもう魔法を使っても大丈夫だって分かってくれたよね」
そういうと、急に母さんの表情が曇った。
「それは……レイちゃんが天才なのは分かったわ。でも、やっぱりまだ危ないんじゃ……。そうよ。急いで危険なことをさせる必要はないわ。素晴らしい才能を持っているからこそ、大切に伸ばさないと……。200年は成長するのを待ってからでも……」
やっぱり母さんは心配性だ。
ならば、もっと見せてあげよう。
「他にもこんなことができるんだよ」
手のひらを上に向けてると、火の魔法を使った。小さな炎が手のひらの上でゆらゆらと揺れる。
次は水の魔法で、指先から透明な水滴が零れ落ちる。
土の魔法では砂粒が集まって、小さな塔を作り上げた。
最後は風の魔法で渦を作り、小さな塔を優しく元の砂山に戻した。
母さんは言葉も忘れて見入っていた。
「四元素魔法まで……」
驚きの声を上げる母さんに、さらに続ける。
「実は、魔力を探知することもできるんだ。それで隠された魔導書を見つけて、今の魔法を覚えたんだよ」
「魔力感知まで、自力で覚えたの……?」
「うん!」
母さんは迷うような顔で考え込んでいる。
息子の才能は認めてくれたものの、それでもまだ母親としての不安は消えないみたいだ。
なら仕方ない。
最後の切り札を見せるしかないようだ。
「メリア」
「うん、アタシたちの力を見せてあげよう」
頷き返したメリアと手を繋ぐ。
二人分の魔力を集中させ、リビングの壁に向かって魔法を使う。
すると、壁に小さな扉が浮かび上がった。
「まさか……!」
母さんが勢い良く立ち上がって息を呑んだ。
「自分で、ダンジョン魔法まで習得するなんて……」
「ダンジョン魔法?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
母さんはしばらく黙ったまま、扉と俺を見比べていた。
やがて、諦めたように深いため息をつく。
「分かったわ。もう隠すことはできないみたいね」
母さんはソファに腰を下ろすと、俺たちにも座るように促した。
「お母さんとお父さんはね、ダンジョンマスターなの」
「ええっ!?」
思わず声が出る。
ダンジョンマスターっていうと、迷宮を作り出す存在といわれるような、あのダンジョンマスター?
普通はモンスターとかがなるものだと思ってたけど、まさか母さんたちが……?
横を見ると、メリアは驚いていなかった。
「え、レイは知らなかったの?」
「え、何でメリアは知ってるの?」
「みんな知ってるよ?」
当たり前のように言われてしまった。
うそでしょ。
実の息子である俺だけが知らなかったなんて。
「レイちゃんには教えてなかったものね」
母さんは優しく微笑むと、ゆっくりと説明を始めた。
「まずは、私たちエルフのことから教えないといけないわね」
そうして、語り始めた。
母さんの話によると、普通のエルフは数百年生きるという。
それだけでも人間の何倍もの寿命なのに、エルフの王族であるハイエルフは、数千年以上も生きるらしい。
「そんなに長く!?」
「そうよ。だからこそ、私たちハイエルフは何かを極めようとするの」
長い時を生きるハイエルフたちは、その時間を何かの探求に費やすという。
統治を極めて最強の国を作る者もいれば、魔法や武芸の道を究める者もいる。
どの道を選んでも、その者は必ず歴史に名を残すほどの存在になるらしい。
ハイエルフというのはそれだけの才能を秘めた一族なんだという。
「そして、お父さんとお母さんは、ダンジョン作りを極めたの」
母さんの誇らしげな表情に、思わず俺は見とれてしまった。
「今ある世界中のダンジョンの3割は、私たちが作ったものよ。人間たちの間では「迷宮王」と呼ばれてるみたいね」
俺は黙って母さんの言葉を聞いていた。
というより、驚きの連続でなにも言えなかったんだ。
まさか自分の両親が、そんな凄い存在だったなんて思わなかった。
「それだけじゃないの。この家もね、実はダンジョンを作る魔法で作られているのよ」
「この家が、ダンジョン?」
その瞬間、俺の中で様々なものがつながった。
不思議な構造や、行ったことのない部屋の数々。4階より上に上がれない階段。
それは、この家がダンジョンだったからなんだ。
それと同時に、俺の中で別の感情が湧き上がってきた。
ダンジョン。
その言葉に、懐かしさと高揚感が混ざったような、奇妙な感覚を覚える。
この家がダンジョンとして作られているのなら。
そのダンジョン魔法とやらを覚えれば、俺もダンジョンを作れるんだ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます