第14話 初級魔法の使い方
魔力感知で3階に怪しい隠し部屋があるのを発見した。
「この魔力、調べに行ってみない?」
そういうと、メリアの目が期待に輝いた。
「隠し部屋! なんか面白そう!」
乗り気のメリアと一緒にさっそく3階に向かう。
せっかくだし、覚えたばかりの身体強化の魔法も使ってみようかな。
足に魔力を集中して、一気に駆ける。
一歩目で全身にものすごい加速がかかるのを感じた。
「あいたっ!」
そのまま壁にぶつかってしまった。
うーん、力の加減が難しい。
「もう、気を付けなさいよ」
笑いをこらえながらも、メリアが心配そうに手を差し伸べてきた。
「大丈夫? まだ練習が必要みたいね」
「うん、ゆっくり上がることにする」
魔力を足に集めながら、今度は慎重に、一段一段確かめながら3階まで上がっていく。
それでも以前よりずっと楽に階段をのぼれるようになった。この分なら少し練習すれば問題なさそうだ。
3階に着くともう一度魔力感知を使ってみる。
さっき感じた怪しい感じの魔力がより鮮明に伝わってきた。
「この先だ」
そこは一見すると何もない廊下の壁だった。
窓も飾りも何もない、部屋と部屋の間にあるただの壁。
だけど魔力感知を使うと、そこにはっきりと扉の形が浮かび上がってきた。
「ここに扉があるの?」
「うん、間違いない」
手で壁を探ってみると、わずかな段差を見つけた。
指先に魔力を集中させて、その隙間に沿ってなぞっていく。
すると、今まで見えなかった扉の輪郭が浮かび上がってきた。
メリアと顔を見合わせ、頷き合う。
二人で手を伸ばすと、まるで俺たちを招き入れるかのように、すうっと内側に開いていった。
なんだろう……魔力を込めると開くような仕組みなのかな。
扉の向こうは小さな部屋になっていた。
窓もなく、光を放つ水晶が天井にひとつだけ浮いている。
入り口から差し込む廊下の明かりが、部屋の輪郭を照らしていた。
「誰もいないみたいだね……」
メリアがささやくように言う。
部屋の床には薄っすらと埃が積もっている。
でも、部屋の中央に置かれた机の上だけは、不思議とほこりひとつない。
家の中にこんな隠し部屋があったなんて。
机に近づくと、その上に一冊の本が置かれているのが見えた。
ただの本には見えない。周りの空気が微かに揺らめいているような、そんな不思議な存在感を放っている。
「これは……」
手を近づけると、本から確かな魔力の気配が伝わってきた。
「やっぱり魔導書だ!」
こんなところにもあったなんて。
これなら毎日書斎に忍び込まなくても読めるようになるぞ。
でも持ち帰るのはまずいよね。
バレたらよくないし、ここで読むことにしよう。
魔力感知で本を探ると、前に父さんの書斎で見つけた魔導書とは違う気配がした。
放つ魔力も小さいし、本自体も薄い。まるで……。
「初心者用の魔導書、かな」
父さんの書斎の本は経験者向けだったのかもしれない。
きっと父さんが使うためのものなんだろう。
父さんも母さんも、俺が以前に魔法を覚えたいって言ったのを覚えているはずだ。
これはもしかして、俺のために新しく用意してくれたのかな。
「とにかく、これを読んでみよう」
「ダメ!」
メリアが俺の前に立ちはだかる。
「また気を失ったらどうするの! 危ないって分かってるでしょ!」
「大丈夫だよ。今度は違うんだ」
メリアの目をしっかりと見つめて説明する。
「体も強くなってきたし、魔力強化でさらに強くなってる。この本も前のより簡単そうだし。それに……いつまでもメリアに迷惑かけたくないんだ。ボクも一人前の立派なエルフになりたいから」
メリアは迷った表情を浮かべる。
しばらく考え込んでから、深いため息をついた。
「レイは弱っちい弟のくせに生意気だよ」
「でも、ボクが強くなっても、メリアはいつまでも僕のお姉ちゃんだよ」
「そんなのあたりまえでしょ!」
そう言いながらも、メリアの口元は嬉しそうにほころんでいる。
結局、メリアの監視のもとでならいいと許可してもらった。
ゆっくりと魔導書を手に取る。
身体強化のおかげか、それとも本が初心者向けだからか、以前のような強い反発は感じない。
1ページ目を開いた。
文字が浮かび上がってくる。
でも今回は、前のような炎のイメージは現れなかった。
代わりに、体中を魔力が優しく巡るような感覚がある。まるで体の中に新しい魔力回路が作られていくみたいだ。
ただ、それ以上は読み進められなかった。1ページを読んだだけで、体中から力が抜けていく。
「はぁ……はぁ……」
「もう、無理しちゃダメだからね」
メリアに優しく本を取り上げられる。
実際もう限界だった。
1ページだけじゃ何も分からなかったけど、それでも大きな一歩だ。
「はい、もう終わり。部屋まで送ってあげる」
メリアに手を引かれながら、部屋に戻る。
足がふらつくのを、メリアがしっかりと支えてくれた。
「頑張ったね、偉いよ」
歩きながら、頭を優しく撫でられる。
普段なら嫌がるけど、今は疲れ果てて振り払う元気もない。
されるがままになっていると、メリアの手の動きが妙に心地よく感じられた。
こんなことを素直に認めたらきっとまた調子に乗るんだろうけど。
「ねえ、メリア」
「なに?」
「この魔導書のこと、誰にも内緒にしてくれる?」
もう危なくないことも分かったし、これなら読み進められるはずだ。
「うーん……約束する? もう無理はしないって」
「約束するよ」
「じゃあみんなには黙っててあげるね!」
というわけで、あれから毎日秘密の小部屋で魔導書を読んだ。
何度も魔導書を読み返すうちに、少しずつ慣れてきた。
最初は1ページでも気を失いそうだったけど、今では2,3ページくらいなら一日で読めるようになってきた。
魔力切れで倒れる限界が分かるようになってきたんだ。
自分の中の魔力量を把握できるようになったというか。
魔導書の前半は、体の中に魔力回路を作る方法が書かれていたみたいだった。
それのおかげか今まで以上に魔力を効率的に扱えるようになってきた気がする。
それを過ぎると今度は具体的な魔法の使い方が書かれるようになってきた。
とはいえ焦って読み進めるようなことはしない。
時間だけはあるからな。
ひとつひとつ、ゆっくりと練習を重ねていく。
メリアは退屈しないよう、持ってきた絵本を読んでいた。
最初は俺が貸した小説を読んでいたけど、「文字ばっかりじゃつまんない」と言って絵本に切り替えたんだ。
リードの冒険、面白いと思うんだけどな……。
「よし、練習しよう」
魔導書を閉じると、俺は魔力を練り上げ始めた。
まずは火の魔法。手のひらを前に向け、頭の中でイメージを作って、魔力を集中させる。
パリッと小さな火花が散った。
次は水の魔法。指先からぽたぽたと水滴が垂れる。
最後に土の魔法。指の先から砂粒がパラパラとこぼれた。
「はぁっ、はぁっ……」
それだけで息が上がってきた。限界だ。
床に座り込んで天井を見上げていると、メリアが読んでいた絵本を置いてこっちに近づいてきた。
「アタシもそれ読んでみたい」
「えっ、メリアも?」
思わず体を起こす。
「レイばっかりずるい。アタシはお姉ちゃんなんだよ」
お姉ちゃんは関係ないと思うけど……。
少し心配になる。
でも、メリアは俺よりも体が強いし、魔力だって豊富だ。
倒れるということもないだろう。
それに、万が一のときは今度は俺が守る番だ。
「うん、いいよ」
魔導書を差し出すと、メリアはすぐに読み始めた。
1ページ目を開いても、特に問題なさそうだ。
そのままぺらぺらとページをめくり、あっという間に最後まで読んでしまった。
その様子に俺は愕然とする。
「そんな……僕は数ページ見るだけでヘロヘロになるのに……」
「ふふん! だってアタシはお姉ちゃんだからね!」
得意げに胸を張るメリア。
そのまま本を見ながら、何気なく手を前に出した。
「えーっと……火よ出て」
その瞬間、メリアの手のひらから握りこぶしくらいの火の玉が生まれた。
まっすぐ机に向かって飛んでいく。
机に当たると爆発してバラバラになり、燃え始めた。
「うわーっ!」
「どうしようどうしよう!?」
「はやく火を消さないと! ええっと、とにかく水ーっ!」
あわてて水の魔法を使う。
魔導書もないし、呪文なんて知らない。とにかく必死だった。
だけど手のひらからは勢いよく水が噴き出した。
まるで噴水を横に倒したみたい。おかげで火をあっという間に消すことができた。
「あ、あぶなかった……」
「あせったねー」
「もう、メリア! 火の魔法なんて急に使わないでよ!」
「えへへ、ごめんね。まさかいきなりあんなすごいのが出るなんて思わなくて」
それは俺も予想外だった。
自分が使っても火花がパチッと出るくらいなのに。
「でも、レイもさっきの水すごかったね」
「うん……」
とにかく慌ててたから、どうやったのかは覚えていない。
鍛冶場の馬鹿力、というやつなのかな。
「とにかく、いきなりあんな魔法が使えちゃうなんて、やっぱりアタシはすごいってことだね」
めちゃくちゃドヤ顔されてしまった。
反論したいけど、実際メリアの方が魔法への適正があるのは確かだ。
きっと魔力を使った身体強化に慣れてる分、適正も高いんだ。ずるい。
今後は身体強化の方法も並行して練習していかないと。
それからさらに練習を重ねた。やがて本に書かれている簡単な魔法なら、全部使えるようになってきた。
威力はまだまだ弱いけど、それでも確実に前進している。
「よし、復習だ」
まず土の魔法。
魔力を指先に集めると、砂をこぼすように土の粒子があふれてきて、ゆっくりと形を作り始める。
粘土をこねるように形を整え、それから魔力で固めていく。
出来上がった食器は少し歪んでいるけど、そこはまだ仕方ない。繰り返すことで精度を上げていこう。
次は水の魔法。
手のひらに魔力を集中させ、空気中の水分を引き寄せる。
指先からホースから水を撒く程度の水流が流れ出し、作ったばかりの食器に溜まっていった。
そして最後に火の魔法。
今度は人差し指に魔力を集める。
指先くらいの小さな火の玉が現れ、水の中に飛んでいった。
ジュッと音を立てて消える瞬間、小さな水蒸気の柱が立ち上った。
その煙を、風の魔法で吹き消す。
掌全体で風を作り出し、そっと送り出すように飛ばすんだ。
どの魔法も動きが遅いし、威力もイメージの半分もない。
良く分からないまま魔導書を読んでるせいだろう。
相変わらず文字を目にするだけでイメージが浮かんでくるけど、文字の意味そのものは未だにわかっていないんだ。
もっと効率の良い勉強方法が必要だ。
実は、その方法に心当たりはある。でも――。
「きっと反対されるよね」
「でも、やらないよりはいいんじゃない?」
メリアの言葉に、俺も頷く。
「そうだね。ダメかも知れないけどお願いしてみよう」
俺たちはリビングに向かった。
改めて、母さんに魔法を教えてもらうよう頼みに行くんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます