第13話 成長した力の使い方

メリアはものすごい魔力の持ち主だった。


「まさかメリアに魔法の才能があったなんて……」

「ふふふ。だってお姉ちゃんだからね」


たぶん意味は分かってないだろうけど、ご機嫌だ。

俺はメリアの周りの魔力をじっと見つめた。

さっきまではただ「すごいなぁ」って思ってただけだけど、よく見ると魔力が不思議な動きをしてる。


「なによ? そんなにじーっと見て」

「なんか、不思議な感じがあるような気がして……」


メリアが首を傾げる。

その瞬間、メリアの中の魔力がふわって揺れた。


「えっ、いまのって……」

「どうしたの?」

「ねぇ、ちょっと腕動かしてみて!」


メリアが不思議そうな顔をしながら、腕を上げ下げする。

特に変なところはない。

けど、重いものを持ってもらうと、動く魔力の量も多く、力強くなった。


「まさか、これって……」


メリアが腕を動かすたび、魔力が腕に集まる。

歩くと足に。何か持ち上げようとすると、その部分にばーって集中する。

魔力が体に沿って流れている。


「そうか! メリアは魔力で体を強くしてるんだ!」


いわゆる身体強化魔法ってやつだろう。


「えっ、魔力で強化? そんなことしてないけど……」

「きっと無意識でやってるんだと思う。だから体の大きさは僕と同じくらいなのに、あんなに力持ちなんだよ!」


この前から練習してる俺の魔力の使い方と似てる。

でも、メリアの場合は全然違う。もっと自然で、息するみたいに体中に広がってる。

それこそ血が血管を通って体中を巡るみたいに。


そしてそれはもう一つの凄い発見につながった。


魔導書が読めないのは、体が魔力に負けてしまうからだと、母さんが言っていた。

だけどメリアと同じように、体を魔力で強化できれば、きっと魔力にも負けなくなるはず。

魔導書も読めるようになるはずだ!


「ねえメリア、いつもどうやって体を強化してるか教えて」

「ええ? だって、アタシそんなことしたことないよ」


どうやら本当に無自覚なようだ。


「うーん。じゃあ、重いものを持つときはどうやってるの?」

「こうやって、ぐっと握って、ぐっと力を入れるんだよ」


何の参考にもならなかった。

やっぱりメリアも脳筋なんだな。


「今失礼なこと考えたでしょ?」


ぎくっ。

さすが自称お姉ちゃん。俺の考えはすぐに読まれてしまう。


「ええと……そうだ! ちょっとこの椅子を持ってみてよ!」

「いいよ。はい」


大人用のいすを片手で持ち上げるメリア。

俺だったら両手で持ち上げてもバランスを崩して倒れそうなものでも、メリアは軽々と持ち上げる。

俺はその時のメリアの体に流れる魔力に注目した。


「よーし」


目で見てもわからない。

だから目を閉じて集中する。

魔力感知の力を伸ばして、メリアの体全体を包み込んだ。


「あははははっ!」


急にメリアが笑い出し、俺の魔力が弾き飛ばされてしまった。


「ええっ! いきなり笑いだしてどうしたのメリア」

「なんか体をくすぐられたみたいにくすぐったくなって」


それで無意識に俺の魔力を弾き飛ばしてしまったみたいだ。


しかたない。この方法はあきらめて、見た目だけで真似てみよう。

体の中に魔力を巡らせるのは、この前から練習してるから少しは慣れてる。

さっき見たメリアのように、自分の体内に魔力を巡らせてみた。


「むむむ……」

「この椅子、もういい?」

「もうちょっと持ってて!」

「えー。まあいいけど」


メリアの真似をして魔力を流す。

それから椅子を持ち上げてみた。


「うう、重い……」


上手くいかなかった。

魔力は流れるけど、それだけで終わってしまう。全然力は増えなかった。


大丈夫。

失敗するのは慣れている。

目の前にお手本がいるんだから、成功するまで真似すればいいだけだ。


椅子は重いからやめておくことにして、本にしよう。

手に本を持ちながら、メリアの魔力の動きを真似して体の中で巡らせる。

何度も何度も繰り返す。

メリアが飽きて置いた椅子に座って絵本を読み始めた頃……


「あっ!」


手にしていた本が急に軽く感じた。

数十回目くらいの挑戦でやっと感じた、魔力が力に変わる感覚。

これだ!

今の感覚を忘れないうちに、もう一度腕に魔力を込めた。

手にした本が羽のように軽くなった。持ってるのを忘れるくらいだ。


「できた! メリア見て!」


片手で本を軽々と持ち上げ、そのまま頭上まで振り上げる。

次は両手で本を持って、まるでおもちゃのように回転させてみせた。


「これ、本当は結構重いんだよ。ほら」


魔力を解除すると、本が床に落ちた。どさどさっと大きな音が響く。


「今度は机の上の本を全部持ってみるね」


次々と本を腕に抱え込んでいく。

普段なら両手でやっと一冊なのに、今は何冊も抱えられる。

最後には小さな図書館のように本を山積みにした。


「すごいでしょ?」


メリアほど自然じゃないけど、確かに強くなった気がする。

本の山を抱えたまま、得意げにメリアの方を振り返った。


「へー、レイのくせに確かにすごいね」


なんだか反応が薄い。

もっと喜んでくれると思ったのに……。


「でも、これで分かったよ」

「何が?」

「メリアが強い理由! 僕も身体強化の魔法を練習すれば、メリアみたいに強くなれるんだ!」

「ふーん」


急にメリアが、何か言いたそうな顔をした。


「じゃあ試してみる?」

「えっ、なにを?」

「腕相撲!」

「えっ、ちょ、まって!」


止めたけど、遅かった。

メリアの手が俺の手を掴む。


「せーの!」

「あいたあっ!」


一瞬で負けた。

メリアが不敵な笑みを浮かべる。


「まだまだね、レイは」

「ううー……」


どうあっても自分がお姉ちゃんであることを示さないといけないらしい。

でもお姉ちゃんなら弟に優しくするべきなんじゃないのかなあ。


とにかく、魔力により身体強化を続けていけば、メリアと同じくらいに強くなれるってことが分かったのは収穫だった。



そうやって身体強化の練習を重ねるうちに、魔力の扱いもより繊細になってきた。

指先一本一本に魔力を流し込んだり、体の特定の部分だけを強化したり。

まるで体の一部のように、魔力を思い通りに動かせるようになった。


最初は腕にしか流せなかった魔力が、今では指先の関節一つ一つまで。

足の指にも、背中の筋肉にも、自由自在に魔力を巡らせることができる。


そんな細かな魔力操作を練習しているうちに、魔力感知の使い方も変わってきた。

今までは漠然と感じ取っていた魔力の気配が、まるで目で見るように鮮明に分かるようになったんだ。


「もっと遠くまで、試してみよう」


目を閉じて、家中に魔力を巡らせてみる。

台所では母さんが料理の支度。書斎では父さんが仕事中。その魔力の流れは、もう見慣れた風景だ。

そして――3階の奥まった部屋から、不思議な魔力を感じ取った。


「これは……なんだろう?」


そこは今まで何もない部屋だった。

だけどこれは……どうやら隠し扉があったみたいだ。不思議な魔力はその奥から感じる。

これは、行ってみるしかないよね!

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