第7話 謎の光の正体

あれから4歳になった。

4歳の誕生日には、メリアやその家族も来てくれて、盛大に祝ってくれた。

メリアは赤髪だからその両親もと思ったんだけど、以外とメリアの両親は二人とも薄い緑色の髪だった。

まあエルフっぽいと言えばエルフっぽいけど。


あの日以来メリアは本当に毎日俺の家に来るようになったし、今まで以上に楽しそうに俺のお姉ちゃんになった。


俺ばっかり祝ってもらってなんか悪いな。

今度メリアにもお返ししたいから、誕生日を教えてよ。


「アタシの誕生日は来月だよ」

「そうなんだ、わかった。お返しに何か用意するね」

「レイが何をくれるのか楽しみだなー」


メリアがにっこにこでうれしそうだ。

その笑顔を見ていた俺も思わずほっこりとして、ふと違和感に気が付いた。


ん? ちょっと待てよ。それっておかしいじゃないか。


「来月がメリアの誕生日ってことは、僕のほうが年上ってことじゃん!」


その事実に気が付くと、メリアがじとーっと俺のほうを見てきた。


「な、なに?」

「ふーん。レイのくせにそんなこと言うんだ」


そんなこともなにも、実際に俺のほうが1か月年上ってことになるんだけど。

するとメリアが不敵な笑みを浮かべた。


「じゃあどっちが年上か決めようか」

「え?」

「腕相撲! 強い方がお姉ちゃんってことで!」

「えぇ……」


急にそんなことを言い出した。

なんで腕相撲なんだ……。

それに、その条件だと、俺が勝ったら俺がお姉ちゃんになってしまうけど。


でも、メリアは知らないだろうけど、最近の俺は筋トレを結構頑張っている。

半年前とは比較にならないくらい成長したんだ。

きっと油断してるだろう。

ここらで俺の成長を見せて、どっちが年上かわからせてやろうじゃないか。


「いいよ、やろう!」

「ふふふ……」


そうして部屋のテーブルで腕相撲をした。

けど……。


結果は惨敗だった。

それはもう一瞬で俺の手はテーブルに押し付けられていた。


「なんで……」


うなだれる俺にメリアがドヤ顔を浮かべる。


「ふっふっふ、これで文句ないでしょ?」


最近筋トレで成長したと思っていた俺は、勝てるつもりだったんだ。

全然無理だった。

メリアの腕は俺と同じくらいに細いのに、メリアの力は半端なかった。

どうしてこんなに差があるんだ。

何かチートを使ってるんじゃないか?


「ちーと? なにそれ」


異世界のエルフがチートなんて言葉知ってるはずないか。

納得いかなかったけど、負けたんだから仕方ない。

俺は年下の姉に従うことになった。


なので、今日もメリアに連れられて俺の家を探検する。

とはいえ、さすがに半年もあれば行ける所は行き尽くした。家の中ではもう新しい発見はない。

家の中を飛んでいる光も同じだった。


メリアと手をつないで探検していると、相変わらず光の玉を見つけることができた。

そして触ると消える。それ以上のことは今も分かっていない。

だけど、初めはぼんやりしていた光の玉が、少しずつだけどはっきり見えるようになった気がする。


「レイ、また光の玉見てるの?」

「うん。メリアには見えない?」

「全然! レイの作り話だと思ってる」


なんでこのお姉ちゃんは弟の話を信じないんだ。弟を信じるのも姉の仕事じゃないのか?


結局、見えるのは俺だけのようだ。これも理由はわかっていない。

それにメリアが帰ったあと一人になっても、本当にごくわずかだけど、光ってるのが見える気がするんだよな。

毎日探していることで、俺の中でも何かが成長したってことなんだろうか。

とりあえずこれからも続けていこう。




ある日、メリアと台所で母さんの料理を手伝っているときだった。


母さんは料理をするときに魔法を使って火をつける。

このほうが味が染みやすいとか何とか言ってたけど、重要なのはそこじゃない。


母さんが呪文の詠唱をすると母さんの中にあの光が集まっていき、魔法の発動と同時に光が消え、代わりに火の魔法が出たんだ。

今まではそんなの一度も見えなかった。

もしかして、光の玉が見えやすくなってきたのが影響しているのかな?


理由はわからないけど、でもおかげで確信できた。

あの光の玉は魔力だったんだ。


「メリア! 分かったよ、あの光の正体!」

「え? なになに?」

「魔力だと思う。母さんが魔法使うとき、同じような光が見えるんだ」


メリアは口をとがらせた。


「ええー、そんなのずるい! アタシには魔力なんて見えたことないのに! レイのくせに生意気!」

「ふふふ。これでどっちがお姉ちゃんかはっきりしたね」

「ぐぬぬ……! じゃあまた腕相撲で勝負しよ!」

「いいよ。今度こそ成長した僕を見せてあげる」


ぐぐぐ……ばたん!


「はい、アタシの勝ちー!」


一瞬で負かされた。

前回よりも早かった。

俺も成長したつもりだったけど、なんというかメリアはそのさらに2倍くらい成長してる感じだ。

ぐぬぬ……。本当に同じエルフなのかこの年下のお姉ちゃんは。



そんなわけで筋トレも続けているけど、それとは別に、俺は一人になると魔法の研究も進めるようになっていた。


魔力が見えということは、きっと魔法だって使えるはずだ。

なので、とりあえずいろいろ魔法っぽいことをやってみた。

呪文を唱えたり、頭で炎をイメージして手のひらで出そうとしたり。

でも全然ダメだった。

母さんが料理してる様子を観察しながら、なるべく同じようなことをしてみる。やっぱり駄目だった。


進展がなくてどうしようもないので、母さんに魔法を教えてと頼んでみた。

予想通り危険すぎると言って断られた。

いつもは優しくたしなめる母さんが、珍しく真剣な顔で、俺にはまだ早いと言って止めてきた。


「魔法は本当に危険なの。レイちゃんには魔法の才能があるから、焦らなくてもすぐに使えるようになるわ。だからもう少しガマンしてね」


家の外に出るのさえダメな母さんなんだから、そうなるのも当然か。


「ちなみにどれくらい我慢すればいいの?」

「お母さんが初めて魔法を使ったのは、確か200才くらいだったかしら」


遠すぎる!!

母さんの俺の心配する気持ちには悪いけど、そんなに我慢できる俺じゃない。


まずは魔力を集めてみよう。

最初はうまく見えなかった光の玉も、触り続けるうちによく見えるようになってきていた。

きっと継続することで、新しい何かが見えてくるはずだ。


光の玉を集め、それを自分の中で形にする。

最初はうまくいかなかった。

けど続けるうちに、自分の中で何かが生まれるような感覚があった。


それを言葉で表現することは難しい。

だけど、これだという確信があった。

これが魔法のもとになるはずだ。


そうして秘密の修行を続けること数か月。

ついにその日は来た。


「──ファイア!」


手をかざして呪文を叫ぶ。

母さんのように炎は出なかった。


けど。


ぱたり、と。

離れたところに立てていた絵本が倒れた。

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