第2話 初めて報われた日
俺の授業は相変わらず、魔力向上の基礎訓練のみだ。
しかもその訓練は、日がたつにつれて拷問のようになっていった。
死を覚悟するほどギリギリまで水へ沈められたり、気絶するまで魔力を放出し続けるのだ。
「きさまは他の生徒と比べて、明らかに才能がない。はっきりいってクズだ! そんなきさまの訓練に付き合ってやっているこっちの身にもなってみろ! ありがたく思え!」
毎日のようにそんな罵倒を浴びせられ続け、訳も分からず耐え続ける。
アレックスたちからの嫌がらせや暴力も、毎日続いた。
なぜ俺は、こんな仕打ちを受け続けているんだろう。
思えば生まれてからずっと、ずっとこんな毎日じゃないか。
死にたくなることもある。
でもそのたびに、父からもらった羽付きの帽子を眺めて心を落ち着かせた。
そんな日々が一年ほど続いた、ある朝のこと。
「リヴィアス、学園長がお呼びだ!」
早朝にいきなり掘っ立て小屋の扉が開いて、一人の教師が叫んだ。
その声に驚いて飛び起きる。
なんだなんだ?
何事だ?
「これからおまえを学園長室へ連れていく。早く起きて着替えろ!」
「わ、わかりました!」
なんで学園長が俺なんかに?
よくわからないまま着替えを済ませ、教師についていく。
確か学園長室は学園の最上階だったか。
最上階はよほどの用がない限り、生徒は立ち入りを許されていなかった。
そんなところに俺が?
園内を歩きながらも妙な不安から、ついあたりをきょろきょろ見回してしまう。
それにしても、俺の住む掘っ立て小屋があるとは思えないくらい、きれいで立派な建物だよな。
しばらくして、大きな扉の前で教師が足を止めた。
「リヴィアスを連れてまいりました」
ドアの前で教師が背筋を伸ばし、声を張り上げる。
「うむ。入りたまえ」
中から学園長らしき人の声が聞こえてきて、教師がドアを開けた。
広々とした室内に大きな円卓があり、それを囲むように何名かの男女が座っていた。
着てる服や鎧からして、明らかに高貴な剣士や魔術師たちだ。
そして恰幅がよくて人のよさそうな白髪交じりのおじいさんが、一番奥の席に座っている。
彼が学園長だ、一度だけ見たことがある。
さらに十数人ほどの生徒も、部屋の端に立っていた。
その生徒たちの中心にアレックスがいて、俺を睨んでいる。
「やあやあ、キミがリヴィアス君じゃね」
学園長がのっそりと立ち上がった。
「は、はい!」
「キミの担任から聞いておるよ。この一年で、魔力が飛躍的にアップしたそうじゃないか」
「え?」
もしかして褒められた?
つい変な声を出してしまったけど、聞き間違いじゃないよね?
俺が戸惑っていると、とても豪華な軽鎧に身を包んだ男が、椅子から立ち上がってこちらを振り返った。
「ほほう、ふむふむ……なるほどー。この子がそうなんですね、学園長。実に興味深い」
人当たりのよさそうな笑顔を向けてくる。
も、もしかしてこの人!
いや、間違いない!
この人は勇者レオナルト様だ!
そういえば円卓に座っている人たちも、見覚えがある。
現勇者パーティーメンバーの剣士・ヴァンサン様。
さらに人類最強の魔導士・エノーラ様!
ヴァンサン様はおかっぱの黒髪で、少しぽっちゃりしている。
強そうな見た目じゃないけど、勇者パーティーの剣士なのだ。
きっとものすごい実力の持ち主に違いない。
エノーラ様は長い銀髪がとてもきれいで、肌も透き通るように白い。
女神様がいるとすれば、きっとこの人のようなお姿をしていることだろう。
この人たちを生で見られる日が来るなんて。
緊張で固まっていると、レオナルト様が俺の目の前までやってきた。
そして俺の顔を、物珍しそうに覗き込んでくる。
しばらくして、レオナルト様がさわやかな笑顔を見せた。
「はっはっは! リヴィアス君、よく頑張った! キミは間違いなく、人類を救う存在になれるよ」
学園長だけじゃなく、勇者様にまでこんなことを言われるなんて!
今まで褒められたことのない俺を、学園長や勇者様が……。
思わず涙が出てきた。
でも、俺や学生たちがこの学園長室に呼ばれている理由はなんだろう。
ちょうどそんな疑問が浮かんだとき、ヴァンサン様が口を開いた。
「僕たちこれから、あるダンジョンの探索することになってるんだよね。そこで学生の中から選抜して、後学のために連れて行こうってなったんだよね。めんどくさいけどね」
口をへの字にして、ヴァンサン様が「フン!」と鼻息を鳴らす。
続いてエノーラ様も、おっとりした口調で言った。
「つまりねぇ。ここに集まった子たちは、将来を期待された未来の勇者候補生というわけなのよぉ」
じゃあ俺も、勇者候補に選ばれたってことなのか?
いきなりの展開過ぎて、夢なんじゃないかと疑ってしまう。
「まあダンジョンと言っても、俺たちが一緒だから安全さ。それに君たちは優秀だからね、危険は限りなくゼロに近し! 遠足気分で、気軽に楽しもうな」
笑いながらレオナルト様がそう言って、俺の肩をポンポン叩いた。
「出発は明朝とのことじゃ。各々しっかり準備して、勇者様たちからしっかり学ばせてもらいなさい」
そんな感じで学園長がその場を締め、解散となった。
アレックスだけじゃなく他の生徒たちも、ずっと不服そうに俺を睨んでいたのは気になったけど。
でも、今日は人生最良の日に違いない。
ついにこれまでの苦労が報われたんだ。
このときの俺は、間違いなくそう思っていた。
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