家畜扱いされて魔界へ追放された俺は、魔王の力を得て人間様どもをざまぁしながらヒロインたちとともに人間界を支配する

我那覇アキラ

第一章 落ちこぼれが魔王になるまで

第1話 学園での生活

 窓を拭いてるとき、後ろから頭をたたかれた。

 その衝撃で、いつもかぶっている羽付きの帽子が飛んで床に落ちる。


「リヴィアス、ちゃんと拭いたのかよ。まだホコリが残ってるぜ」


 振り向くと、アレックスが取り巻きの学生を引き連れて、俺を取り囲んでいた。

 彼が人差し指に付けたホコリを、俺の服でふき取りながら笑う。


 アレックスは剣も魔法もトップの成績をキープし続ける天才児で、未来の勇者候補筆頭とウワサさされる学生だった。

 モブ以下の俺なんかじゃ、とても反抗できる相手じゃない。


「おまえみたいな才能もないやつが、この学園にいられるだけでもありがたいことなんだからよ。せめて掃除くらいまともにこなせよな」


 悔しいが、彼の言うことも一理ある。

 なぜ凡人以下の才能しか持たない俺が、この学園にいるのだろう。

 正直、自分でもよくわからない。


「掃除が終わったら、俺らの荷物持ちだからな。すぐに来いよ」


 俺はいつもどおり、彼らの機嫌を損ねないよう愛想笑いを浮かべながら「わかりました」と返事する。


「けっ! へらへらしやがって。おめぇを見てると、イラつくんだよ」


 そう言ってアレックスは、俺の腹を一発殴った。


「うぐ!」


 悶絶して膝をついた俺を見下ろしながら、アレックスがさらに蹴りを放とうとした。


「おい、おまえら! 何をやっている!」


 どうやら教師が来てくれたみたいだ。

 一応、学園の教師たちは、俺への暴力からは守ってくれる。


「やだな先生。リヴィアス君に、掃除のやり方を教えてあげただけですよ」

「もういい。お前らはあっちへ言ってろ」


 教師がそう言うと、アレックスは「はいはい」と返事をしてから、仲間の学生を引き連れて去っていった。


「大事な帽子なんだろう。早くかぶりなおして掃除の続きをしろ」


 教師は落ちてしまった羽付き帽子を拾って、俺に手渡した。

 それ以上は何も言わず、教師は俺を残してどこかへいってしまった。

 守ってはくれるんだけど、どの教師も完全に塩対応だ。



 * * *



 夜になり、自分の部屋へと戻る。


 他の学生たちは、ほとんどが学生寮に住んでいた。

 しかし俺にあてがわれたのは、穴だらけの壁板に囲まれた掘っ建て小屋だ。


 俺は本来の季節から外れた時期に中途入学させられた。

 入学時には寮の部屋が満室だったらしく、こんな小屋で寝泊まりさせられている。

 世界有数の学園とは思えない、ひどい待遇じゃないか。


 しかし、なぜなのかはわからないが、俺は入学金も授業料も完全免除らしい。

 それを考えると、この扱いも仕方ないことなのかも。


 勇者に仕える優秀な人材を育成するために作られた、インペリウム学園。

 通えるのは貴族や王族のご子息でかつ才能にあふれた、真に選ばれた若者だけと言われている。

 そんなところに俺が通えていること自体、おかしいのだ。


「でも俺は、好きでここにいるわけじゃないのに……」


 板の上にワラが敷かれただけの堅いベッドの上で、古びた毛布にくるまる。

 この学園に入学したのは、父の命令によるものだった。


「おまえは明日からインペリウム学園に通え」


 突然そう言われたのが半年前。


 本来ならあるはずの試験を受けることもなく、どんな理由で、どんな方法で入学できたのかも分からないまま、今に至る。


 謎なのは、それだけじゃない。

 なぜか俺は他の生徒と違って、魔力を向上させる基礎訓練ばかりやらされていた。

 あとは学園の掃除、雑用、そして優秀な生徒たちからの嫌がらせや使い走り。


 実はそれでも、家に住んでいたあの頃よりはマシなのかもしれない。

 物心ついたころから俺は、父からの虐待に耐えてきた。


「何の役にもたたねえグズが!」


 そう罵られ続け、殴られ、家事をさせられてきた。


 母はいない。

 男を作って出ていった「あばずれ」とだけ聞かされていた。

 その女に、俺がそっくりなのだとも言われた。

 虐待を続けてきたのは、そんな過去があったからだろうか。


 でも一度だけ父は、誕生日の祝いにとプレゼントをくれたことがある。

 それがいつも大事にしている、羽付きの帽子だ。


「父は俺にまったく愛情がないわけじゃないんだ……」


 かぶっていた帽子を手に取って握りしめ、ぼーっと見つめる。

 この帽子だけが、俺の唯一の救いだった。


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