露店の不思議な品物

@arajinmitayo

第1話

ちょっと、そこの旦那何かお探しですか?なんと、家の酒壺が割れてしまったと。

 それならこちらはどうです?この壺の細かい細工を見てください。何人もの人達が楽しそうに宴をしているでしょう?この人達はこの中で生きているんですよ。宴の中心にいる2人をよく見てください。鎧の装飾が違うでしょう?他にもここのマンカラで勝負している方々も、ほらあそこの踊っている人の輪も。実はこの2人は敵の大将同士。ダハブ国とフィッダ国が戦争中なのはご存知でしょう?これはその戦争が始まる前の話です。戦に備えて、2人はそれぞれ勅命で国境の見張りを承りました。戦争を目前に控え、睨み合いが続き日ごとに緊張感が高まるなか、ある夜巨大な砂嵐が襲いかかり両軍の野営地は吹き飛ばされ、夜の砂漠を彷徨うことになってしまいました。這う這うの体でやっと見つけた安全地、なんの因果か運命か、両軍は鉢合わせてしまったのです。互いに手を出さないことを約束し両軍は同じ場所で一晩を過ごすことになりました。兵士たちの間でぽつぽつと会話が交わされ、その輪は広がっていき、やがて一夜限りの宴が開かれたのです。これまでピリピリしていた反動で宴は大いに盛り上がり、嵐が過ぎ去ったことに気づかないふりをしながら、かねてからの友人のように親しく飲み交わしました。しかし時は有限、夜が明けてくるにつれ、この平和も終わりが見えて来ました。兵士たちは、もし明日、戦が始まってしまったら友と殺し合いをしなくてはならない。どうか月よ、行かないでくれと懇願しました。哀れに思った月は宴で飲んでいた酒壺の絵の中に皆を引き連れ、明けない夜を与えたのです。

 そう!それこそがこの酒壺!そのお陰か、この壺に入れた酒を飲み交わすとどんなに仲が悪くともすっかり打ち解けることができるのですよ。あぁ、ひとつ旦那にお願いがありまして、彼の国同士の戦争が終わったらどうか、この壺を割って中の人達を出してあげてくれませんでしょうか。なに、壺は無くなりますがその代わりに最高に楽しい宴に参加することができますよ。

 それではお買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしておりますよ。

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