第2話
口を手で塞ぎ、息を殺す。教室の窓から外に出、ベランダに位置する場所で身を潜め腰を落としていた。隣で同じように手で口を塞ぎ息を殺す学ランを着用している淡い青髪の青年――
ゆっくりと立ち上がり、空いた窓から中を覗き込む。といってもカーテンが邪魔で仲は良く見えない。左腕で体を押さえながら右腕でカーテンを避ける。
先の足音、声から大体の状況が分かっていたが、やはり目で見て確認すると安心する。もう居なくなっていたの安堵して吐息を吐く。
「これからどうするかぁ」
そう言いながらまた同じ位置に腰を落とす。
蒼空はというと、ずっと何かを考えるように顎に手を添えていた。そして、とりあえずというように立ち上がり、
「とりあえず、此処にいては見つかる可能性が高い。だけど、今移動しても別の奴と出くわす可能性が高い」
「そうだな」
蒼空の言うことに相槌を打つ。
「だから、とりあえず、職員室に行かないか?」
「なんでだよ?」
蒼空の提案に疑問符を浮かべる。
ここから職員室といえば渡り廊下を渡らなければならない。今いる場所が二階の一年生の教室――『2-5』だ。この教室から出て左に行くと、右手に渡り廊下があり、渡ったのちに左にある階段をおりて少し歩くと職員室がある。
「まだこの学校に来て浅い俺達は教室の全貌をまだ知らない。ならば知っている場所で助けを呼べそうな場所に行くのが最善だろ?」
「だが……う〜ん……」
言葉の途中で言うのをやめた。言い返す言葉はあれど代替案が浮かばなかったのだ。
「とりあえず教室に入ってから考えよう」
蒼空の言葉に頷き、また窓から教室内に入る。教室は騒然とした様子はなく、ただ静寂に静まり返っていた。教卓のあたりに視線を向けると血痕が残っている。その跡を見ると自然に零兎の拳に力が入る。何もできず自分に腹が立つのだ。あの時、大人数の歩く音が聞こえた。しかもそれぞれが段々とばらけ、自分の定位置に向かうように、だ。それぐらいでは別段と警戒する必要はない。するのがおかしいと言ってもいいだろう。そしてあの男の襲来だ。狂気を感じさせるあのギラついた眼。異変を感じてすぐに出ようとしたが、そこで蒼空に止められた。一番後ろの四隅の席、窓に一番近い席に座っていた零兎の隣に座る蒼空。その左手が零兎の行く足を止めさせた。その手からは「先生がどうにかしてくれる」と、言うようだった。零兎も足を止め自分の席に戻ろうとした。
だが、その考えは甘かった。男の動きはことを想定したように俊敏で、すぐにその考えを打ち砕いてきた。先ほどから鳴る悲鳴。人の絶望の声が響き渡る。声からして察していた通り何人もの実行犯がいる。その中でこの一人倒してもなんの意味があるだろうか?
甘えにも似た考えが頭の中で蟠りをつくり渦をなして、動きを止めていた。
だが、一つの思いが――言葉を思い出した時、零兎は動き出せた。
「いいか、あいつの注意が逸れた時に一気に窓から外に出る。大丈夫スマホなら持ってる」
スマホを鞄から取り出して蒼空に見せる。そして、小声で蒼空に伝えると阿呆を見るような目で零兎を見た。がそんなことを無視して、男を注視する。そして、男が教室の外に出ようとした瞬間に、一気に窓に走る。だが、その考えは甘く奴は振り返り、こちらの動きを視界に収めようとした。だが——
「うああああああああぁ!」
と叫びながら教諭がもがき苦しむように頭を抑えながら床を転がる。
その声にすぐに反応し男の視点が一気に逸れる。今がチャンスと捉え、外に出た。蒼空も渋面をつくりながらも結局はついて来た。
「——行くぞ。人気がない、今がチャンスだ」
今までの状況を零兎は振り返っていたが蒼空の声でハッとする。
蒼空の声を合図に、歩き出す。ヒーローの登場の一歩を踏み出した。
高校生ヒーロー 深瀬 楓士 @Fukase-Soji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。高校生ヒーローの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます