第一章 二人のヒーロー
第1話
騒然とする教室。怯え、泣き出す者もいる。悲鳴を上げ、蹲る者もいる。
——まさか、なんの目的で? 皆がそう思い、息を呑む。
「何もしなければ、殺しはしない。危害も加えない。俺指の示に従え」
淡々と伝える奴は、フードを被り顔がよく見えないが、そのギラついた目は狂気を感じさせた。ほっそりとした体躯をしており、見ただけではまるで強そうには思えない。
だが、今直面している状況とは真反対だった。
教鞭をとっていた担任の教諭が一瞬の隙に地面に倒されていた。
不審者の存在に気づいた教諭はすぐに備わっていた刺股を手に取り相手を制圧しようとした。
だが、その判断が間違っていた。フードの男は刺股を物ともせず、教諭に掴みかかって行った。いつの間にか手から離されていた刺股が地面に落ちる瞬間、既に男は教諭に肉薄し、後頭部に手に持っていた金槌を殴りつけた。教諭は一気に倒れ込み、地面に蹲っている。
その時、誰も前に出ようとしなかった。出られなかったのだ。自分もあんなふうになったらと思うと怖く、足がすくんだように動けなくなり、助けにいけなかったのだ。
悲鳴の声が辺りを駆け巡る。静寂だったホームルームはいつの間にか崩れ去っていた。
「言っとくが、抵抗しても無駄だ。俺一人でここに立っていると思うな。組織的犯行、とでも言うべきか。俺ではなく俺達がこの学校に乗り込んだからな」
刻々と伝えられる無慈悲な現実。数少なく、抵抗しようと隙を窺っていた生徒に釘を刺すように男は言った。
『俺達がこの学校に乗り込んだ』という男の台詞からも既に他の教室もこうなっていることが窺えた。だが、既に察しはついていた。先ほどに聞こえた悲鳴。それはこの教室だけではなく、全ての教室から聞こえたように思えた。
「体育館に移動する。お前らの誰か二人でこいつを連れて行け。逃げようとするなよ。」
そう言いながら、蹲る教諭を蹴り飛ばした蹴る。
そして教室から出ようとする男は歩みを止め、
「おっと、こいつを忘れちゃいけねぇ」
と言いながら生徒簿を教卓の上から手に取った。
教室内から生徒が去っていく。男は生徒を連れて体育館に向かっていく。
騒然としていた教室は、静まり返り、ただ、窓の空いたカーテンだけが音を立てて揺れていた。
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