第二章 商会設立編

第10話 商会設立

「お、おまっ……お前! 本当なんだな!?」

「おわっ! は、なっ、せ! は~~~な~~~~せ~~~~!」


 数分ほど、思考が停止していた様子のソックが俺の両肩を掴んでガックンガックンと前後に揺さぶってきた。ちょ、ちょっと気持ち悪くなってきた。


「何だよ。俺の言う事は信じないんじゃなかったのかよ?」


 ソックの手から逃れた俺が、ニヤリと笑ってわざとソックに問いかけるとソックは壊れた扇風機みたいにブンブンと首を振り始めた。


「ち、違う! 俺はお前の事を信じないなんて一言も言っていない! ただ……俺よりだったからお前の事を心配してやったんだ!」


 ……あん? なんだって?

 ちょっと聞き捨てならないな。カチンと来た俺はソックに言い返してやった。


「ハァ!? 誰がチビだって!? お前の方がチビじゃんかっ!」

「何ぃ!?」

「お前の方がチビだ!」

「いいや、お前の方がチビだ!」


 いいや、絶対にソックの方がチビだね。今は爺さんからもらった、たんこぶの分だけ身長が高くなっているだけで、ソックは俺よりもチビなはずだ。


 そうして身長なんてくだらない事でケンカする俺達の間にあった、互いを疑い探り合うようなピリピリとした雰囲気はいつの間にか霧散していた。


「まあ、この際身長は置いておくとしてさっき俺が言った事は本当だって、信じてもらえた?」

「お、おう……俺達は寒さに凍えずに済むんだな?」

「もちろん」


 急な話の転換に戸惑っている様子のソックは、念押しをするように俺に質問をして来た。


「お前に、奴隷のように扱われるなんてないんだよな?」

「もちろん、当たり前だ」


 俺を裏切らない奴隷が欲しいのは事実だが、今は金がないので断念。


 俺は労働搾取は断固拒否だ。雇うからには、安い賃金で働かせる事なく衣食住までしっかりと面倒を見るぞ。


「飯も、腹いっぱい食べて良いんだよな?」

「それは身体に悪いからダメ……だけど、時々は許してやる!」


 ダメ、と俺が言った時のソックの表情があまりにも絶望に染まっていたため、しょうがないからたまにはお腹いっぱい食べる事を許してあげようと思う。


 お腹いっぱい食べるのって身体に良くないって聞くから止めて欲しいんだけど、生活が安定するまでは無理かな。


「だけど、俺達に返せる物なんて何もないぞ……本当にいいのか?」

「そう不安がるな。俺だって何もタダでソック達を助けようなんて思っちゃいない」


 俺の一言に、何をする事になるんだろうと不安げな表情を浮かべるソック。


「そこでだ……爺さん! ソックの盗った銀貨四枚と銅貨二十枚の貸し、返してもらうぜ!」

「な、なんじゃ!?」


 事の成り行きを見守っていた爺さんを、突然俺が指さしたからか少しびっくりした様子でこちらを見つめてくる。


「爺さんには、商会の設立を手伝ってもらう!」

「商会……?」

「名前はそうだなぁ……ポラリス商会にしよう」


 そう、商会だ。

 ソック以外にも、他の捨て子が居ると予想していた俺が考えていたのが商会の設立だ。


「しょ、商会? って何をするんだ?」

「まあまあ、落ち着けって。商会といってもソック達にお願いしたい事は難しい物じゃあない」


 商会、と聞くと大通りでも内壁に近いところに店を構えている、いかにもお金を持っていそうな人たちをイメージしたみたいだけど、俺がやって欲しいのは接客ではない。


「ソック達には、路地裏に捨てられた陶器をひたすら集めてきて欲しいんだよね」

「陶器……あんな皿って事か?」

「そう、がいいね」

「そ、そうか!! 小僧、そうだったのか!!」


 そこで、あの皿やコップの出自に気付いたのか爺さんは唇をわなわなと震わせながら、目を真ん丸にして俺の顔を凝視してくる。そんな爺さんに、俺は唇の端を吊り上げて笑みを返す。


「あ、分かっちゃった?」

「なるほど……クククッ。小僧、考えたな?」

「ジジイ、突然叫んでどうしたんだよ?」


 ソックはいまいちピンと来てないのか、首を傾げているが今はまだそれでいい。ソック達に皿やコップの出どころを話してしまうのは時期尚早だ。


「ソック、ワシもこの小僧の商会設立に賛成じゃ。この小僧であれば、ソック達を悪いようにはせんじゃろう。それに、この小僧は貸し借りというものをよく理解しておる。いずれは国中に広まる大商会になるやもしれんぞ?」


 俺としては、そこまで壮大なビジョンを描いていた訳じゃないけど……。


 言われてみれば、確かに前世の記憶から使えそうなアイデアをパク……もとい、リスペクトした物を売り出せば、かなりの確率で売り上げが見込めそうだ。


 やばい、なんだか俺もワクワクしてきた。


「まじかよ……よし、分かった! おいお前――って名前なんていうんだ?」

「クレイだよ、クレイ。よろしくソック」

「おう、クレイ! これからよろしくな!」


 結局は爺さんのお墨付きが、最後の一押しになったみたいで少し考えた後、俺とソックは握手を交わした。今日この日からポラリス商会という運命共同体は産声を上げたのだ。


「よぉし、そうとなればワシも商会設立の準備をせねば」

「爺さん、その前に昨日の陶器の売り上げ教えてよ!」

「クレイ! 金くれよ金! ガキに飯買って帰りたいんだよ!」


 そうと決まれば、途端に忙しくなる。俺は、皿を作りつつ商会設立の準備。ソックは、捨て子達に商会の説明と俺との顔合わせをセッティングしてもらう事になる。


 俺達三人の中でも、負担が集中してしまうのは爺さん。負担をかけてしまって申し訳ないと思っているが爺さんには、貴族相手に皿の売買を熟してもらいつつ、平行して商会設立の準備を手助けしてもらいたい。


 さあ、忙しくなって来たぞ!



 ―――――――――

 2章開幕です!


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