いずれ来たる、人類がやるべきこと
いちのさつき
哲学者はそれを秘境の住人達に話した
「1962年10月18日。数日前に火蓋が切られ、核兵器の嵐が起こった。アメリカ合衆国。日本。ヨーロッパ諸国。中華人民共和国。その他アジアの地域。ソビエト連邦。主要都市に落とし、全てを破壊し、人々が死んだ。詳細は不明。調査を続行致す」
「1962年10月23日。全ての本拠地がやられ、生存の見込みがないことから、数少ない救助団体は派遣すらも放棄した」
「1963年1月1日。核の雨に遭わなかった者達に告ぐ。我々の文明は終わった。残り少ない日々を大切に扱い、あの世に向かうとしよう」
中華報道機関インドネシア支部の記事より一部抜粋。
1963年1月19日。中華系の新聞が届いたことでようやく知った。核戦争により、先進国という類の国が全て消失したと言う。どこまで本当かは分からない。しかしどちらかがスイッチを切ったことで、核兵器を投げ合う形になったのだろう。
しかし……目上の人間のやることが分からない。日本に落とした時に使った核の威力ですら、街を滅ぼすことが出来ていた。更に開発を重ねていた今回の兵器で、国が滅ぶどころか、隣国その他周辺にまで影響が出る事を理解していたはずだ。
頼っている食べ物(というより嗜好品の類だが)が中々入って来ない。田舎で畑を持っている、且つ、被害が少ないところだからこそ、どうにか生きているが、今後も続けられる保証がない。火山がある。時には大雨やタイフーンもやって来る。祖父母の代で聞いた大地震の件もある。
閉じこもってはいずれ滅ぶ。危険だとしても、先進国が持つ技術や知識を持ち帰らなくてはいけない。ただ……私は既に歳を老いている。転々とできるほどの体力がない。また、秘境の地ということもあり、どこか古い体制があり、誰もが行こうとしない。
いや。そうではないのだろう。
引っ張ってくれた大国が全滅して、どうすればいいのか分からなくなったのだ。そして、核兵器で自然を汚してしまったという罪の意識があるのだろう。ただでさえ工業化などで破壊を繰り返しているのだ。だからこそ、共通の想いが生まれてしまった。
我々人類は存在してはいけない。
秘境だからこそ、絶望の雰囲気には至っていないが、比較的発展が進んでいるところは相当だろう。水がない。食い物がない。これらがないことで、人々は生きることが困難となる。情報が早く行き届き、知識があるからこそ、やがて絶望していく。そうして彼らは怒り、狂い、別の破壊行動を取る。
人類は誤った選択をした。
秘境の地にいる、元ドイツ人の哲学者がそう言った。
しかしどの世界線だろうと、いずれ我々は間違えて、自滅していた。
また、訳の分からないことを言った。誰もが理解出来ていない中、哲学者は気にせずに言い続ける。
ホモ・サピエンス。いや。人類という生き物は弱者で、愚者である。それでも統率者は民のために引っ張っていたが……自分さえよければそれでいいと思ったのか、破滅しても良いという考えに至ったのだろう。ずっと持つ課題を捨てて。
数少ない子供が純粋な質問を投げた。
その課題ってなあに。
科学者は朗らかに。どこか寂しく。答えたのだった。
文明は。人類は。いずれ終わりを迎える。どう終わらせるのか。あとは……やがて来るであろう、次の後継者に引き継げるように何かを残すこと。まだヨーロッパにいる頃に仲間と話し合ったよ。ロマン溢れる答えを出す科学者もいた。方舟を作るとかそんな感じだけども。まあ……合衆国が即却下したって。だって現実化できそうになかったし。
既に亡くなった友のことを思い出したのか、笑いながらも、哲学者の目から涙が溢れている。
彼らのためにも私は穏やかに己の人生を終わらせたい。細々と続けられるようにしたい。確かに人類の文明は衰退したとはいえ、私達はここで生きているのだから。
本当なら泣きたいのだろう。しかし彼は堪えていた。人としての覚悟を決めていたのだろう。いずれ来る課題を終わらせるために。
いずれ来たる、人類がやるべきこと いちのさつき @satuki1
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