第4部 第1話 日本

クリスマスイブの夜。街はイルミネーションで彩られ、カップルたちが手をつないで歩く姿が多く見られた。しかし、彼女はまるでその世界から取り残されたように、ワークステーションデスクに向かっていた。


彼女はフリーランスのデザイナーとして、年末に向けて大量のプロジェクトをこなさなければならなかった。モニターに向かってひたすらデザイン案を考え、メールの返信をし続ける。彼女の仕事のペースは、年々加速する一方で、心の中で「今年こそは」と思いながらも、なかなか彼との時間を作ることができない。


一方、彼も同様だった。エンジニアとして、特に年末の忙しい時期はプロジェクトの締め切りが重なり、気づけば夜遅くまで仕事をしている日々が続いていた。彼もまた、彼女と過ごしたい気持ちを持ちながらも、目の前の仕事に追われ、なかなか連絡を取ることもできなかった。


「今年のクリスマスも、また一緒に過ごせないんだな…」彼女はふと、モニターから目を離して考えた。そのとき、部屋の外で雪が降り始めた音が聞こえてきた。小さな雪の結晶が窓を彩り、世界が静かに白く包まれているような錯覚を覚える。しかし、心の中では忙しさがその静けさをかき消していた。


彼もまた、コンピューター画面を見つめながら、「今日はもう終わりにしよう」と言い聞かせる。疲れ切っていたけれど、心の中で彼女との約束を思い出していた。「クリスマスには、少しだけでも会いたいな。」でも、現実はそう甘くはなかった。仕事が片付かないと、約束を守るのも難しい。


彼女は仕事を終え、ワークステーションデスクの前で疲れた顔をしたまま、ふとスマホを手に取る。「メリークリスマス」と彼に送ろうか、と思ったが、思い直して、そのままメッセージを打たなかった。彼もきっと忙しいだろうし、そんなことでわざわざ送るのもと思ったのだ。


雪が降り続ける音が、さらに静けさを深めていく。彼女はモニターに戻り、もう一度デザインを確認しながら、心の中で少しだけ彼のことを想った。

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