第4話

クリスマスの夜が深まり、子供はすでにベッドの中で静かに眠りについていた。寝室のドアはほんの少し開けられていて、そこから漏れるやわらかな光が廊下に溶け込んでいる。リビングのテーブルには、まだクリスマスディナーの余韻が残るように、ほんの少し残ったワインのグラスが並んでいた。父親と母親は、テーブルの端に座り、ゆっくりとお酒を楽しんでいる。


外では、雪がひっそりと降り続け、窓の外の街灯がその雪を照らして幻想的な光景を作り上げていた。雪が降ると、何もかもが静かになったような気がする。風の音も、街のざわめきも、すべてが雪のふわりとした白さに包み込まれて、世界がひとときの静寂の中に閉じ込められたようだ。


父親はゆっくりとグラスを手に取り、窓の外の雪景色を見つめながら、心の中でひとつの思いを噛み締めるように感じていた。幸せって、何だろう。物質的なもの、瞬間的な喜び、そんなものではなく、もっと深いところで、何かを感じること。それが幸せなんじゃないかと思う。今、ここでこうして、妻と一緒にお酒を飲んで、雪が降り積もるのを見ている。日常の中にある、この小さな瞬間。それが、幸せというものなのかもしれない。


彼はグラスを軽く傾け、深く息を吐いた。そして、無意識にその心の声を口に出すことなく、ゆっくりと微笑んだ。


「幸せって、こういうことかな。」彼はふと、呟いた。


母親はグラスを手にしたまま、少しだけ父親を見て微笑んだ。彼女もまた、何かを感じていた。その感情は言葉にはできないが、二人の間にはそれを共有するだけで十分だった。お互いに見つめ合いながら、ふっと温かな安堵の表情を浮かべる。子供の寝顔を思い浮かべながら、この静かな夜をどうしようもなく大切に感じていた。


「そうね。」母親はお酒を少しだけ口にしながら、言った。「クリスマスにこうやって、二人でお酒を飲んでいるのも、なんだか幸せね。」


その言葉が、雪の降る静けさの中で柔らかく響いた。父親はにっこりと微笑んで、グラスを軽く持ち上げた。「それじゃあ、乾杯。」彼は、しっかりと目を合わせて言った。


母親はレコードプレーヤーに手を伸ばし、静かにレコードをセットした。針が落ちる音が部屋に響き、流れ出したのは古いクリスマスソング。音量は控えめで、曲の優しいメロディーが部屋に広がる。レコードのジャケットには、色あせた金色の文字で「メリークリスマス」と書かれている。


母親は小さな声で、「メリークリスマス。」とつぶやきながら、父親に微笑んだ。


「メリークリスマス。」父親はしっかりと応え、二人でグラスを軽くぶつけ合った。その音が静かな夜に溶け込み、雪の降る外の景色と相まって、ひとときの魔法のように感じられた。


「これが一番だね。」父親は静かに言った。母親はその言葉にうなずきながら、再びグラスを手に取った。二人はそのまま、何も言わずにお酒を飲み、雪が降り積もるのを見つめていた。


部屋の中は温かく、外の寒さとは対照的に、二人の間には静かな幸せが満ちていた。子供の寝顔、クリスマスの晩餐、そして今、二人で過ごす穏やかな時間。それが、この小さな家族にとって、何よりも大切なクリスマスのひとときだった。


雪が静かに降り続ける中で、二人はただその瞬間を心に刻み、ゆっくりと過ごした。

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