第3話
夜が深まるにつれ、フランスのアパートメントに再び静けさが戻ってきた。窓の外では、雪が一層激しく降りしきり、街灯の灯りがぼんやりとその雪を照らしていた。リビングルームの薄暗い照明の下、母親はテーブルの上にクリスマスの晩餐を並べ始めていた。暖かい料理の香りが部屋中に広がり、その温もりが、外の冷え込んだ空気とは対照的に家を包み込んでいる。
子供は、まだサンタクロースのことを思いながら、ツリーの下に置かれた包みを見つめていた。彼の小さな手が、何度も包みの端を触れては、また引っ込める。まだ夜が更けていないため、プレゼントを開けるのを待つ心を、どこかで焦らせながらも、時間が過ぎるのをじっと待っていた。
そのとき、ドアのベルが鳴った。母親は足元に気をつけながらドアを開け、外の冷たい空気を一瞬だけ室内に取り込んだ。そこには、お父さんが立っていた。疲れた顔をしてはいたが、その表情にはどこかほっとした様子が見えた。雪が肩に積もり、外の冷気を引き連れているようだった。
「お父さん!」子供はすぐに駆け寄り、嬉しそうにその腕に飛び込んだ。父親は少し驚いた様子で体を揺らしながらも、にっこりと笑ってその小さな体を抱きしめた。
「おかえりなさい。」母親も微笑みながら、手を止めて父親を迎え入れた。二人は長い間会話を交わすこともなく、ただ無言でお互いの存在を確認し合った。父親はキャップを外し、コートを脱ぎながら、ほっと息をついた。
「寒かったでしょう?」母親が言うと、父親はうなずいた。「ちょっと遅くなったけど、家族が待っているからな。」
子供はすぐにプレゼントの時間があることに気づき、まるで待ってましたと言わんばかりに、ツリーの前に駆け寄った。父親はその様子を見守りながら、ゆっくりとソファに腰を下ろした。
「それ、開けてみな。」父親が穏やかな声で言った。子供は包みを手に取ると、慎重に紙をはがしていった。
母親はその間に、テーブルを整え、最後の準備をしていた。料理の香りと、静かなクリスマスの夜の音が部屋に溶け込んでいく。時間がゆっくり流れるように感じられる。
子供がプレゼントを開けた瞬間、目を見開きながら「わあ!」と声をあげた。それは欲しかったおもちゃだった。興奮した顔をして、お父さんとお母さんにプレゼントを見せに行く。父親はその様子を見ながら静かに笑った。
「すごいだろ?」父親が子供に話しかけた。子供はうなずきながら、「ありがとう!」と言って、そのままプレゼントの箱に戻った。
「でもね、クリスマスって、実はただプレゼントをもらう日じゃないんだよ。」父親は静かに語り始めた。その声にはどこか深い思いが込められていた。
「クリスマスは、子供たちが幸せになるために、世の中を少しでも良くするためにあるんだ。みんなで手を取り合って、思いやりを持って、幸せを分け合う日なんだよ。」父親は子供に向かって、ゆっくりと、そして大切に言葉を選んだ。
子供は父親の言葉をじっと聞きながら、少し首をかしげた。まだその意味が全てわかっていないようだったが、その真剣な表情に、何か大切なことを教えてもらったような気がした。
「だから、今日はお父さんもお母さんも、君のためにこのプレゼントを選んだんだよ。」父親は微笑んで続けた。「君が幸せになることが、僕たちにとって一番大事なことなんだから。」
子供はその言葉に何かを感じたのか、しばらく黙って父親を見つめていた。そして、やがて小さくうなずいてから、「ありがとう、お父さん。」と、心からの言葉を口にした。
母親もそのやり取りを見守りながら、静かに微笑んだ。暖かい家庭の中で、親子三人がこうして幸せな時間を共有していることが、何よりも大切に思えた。
その後、家族はテーブルを囲んで、静かにクリスマスの晩餐を楽しんだ。夕飯が終わると、子供は早速プレゼントを手に取り、部屋の隅にある小さな机に座って、夢中で遊び始めた。父親と母親はそんな子供を見守りながら、何度もお互いに目を合わせて微笑んだ。
外の雪はますます降り積もり、静かな夜が続いていた。クリスマスの夜の温かさと、家族の愛情がこの小さな部屋を包み込んでいるのだった。
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