第3部 第1話 フランス
夜が深く、フランスの小さな町では薄暗い街灯の光が静かに広がっていた。フランスの田舎町、冬の寒さが道を包み込み、雪が静かに降り積もっていた。街角ではわずかな音を立てて雪が舞い、街全体が静けさに包まれている。家々の窓には温かな光が灯り、内部のぬくもりを感じさせていた。
一方、イギリスの都市の片隅。雨が降りしきる中、母親は電話をかける準備をしていた。手元の電話機に指を伸ばし、ダイヤルを回す。思いを込めて番号を押し、電話がかかり始める。微かに響くベルの音が、少しの不安を感じさせた。
「もしもし?」フランスの相手の声が、電話の向こうから聞こえてきた。声は少し寝ぼけているようだが、どこか落ち着きが感じられる。
「こんにちは。クリスマスはどう?」母親は軽く笑いながら、電話口で聞いた。彼女の声は、少し遠く、温かい。イギリスからの電話は、彼女にとっての小さなつながりだった。
「クリスマス? うーん、静かよ。雪が降って、町全体がなんだか幻想的に見えるわ。道端に灯りが点っていて、家々の窓にも飾り付けが見える。静かな夜ね。」フランスの娘の声が、遠くから届く。少し照れくさそうに話すその声に、母親は心の中で微笑んだ。
「そう...それは素敵ね。天気はどうなの?」母親は続けた。クリスマスに降る雪や、町の景色に思いを馳せる。
「うん、寒いけど、いい天気よ。ちょっと冷え込んでいるけれど、太陽が顔を出しているわ。」娘の声が、温かくて安堵感を感じさせた。
「子供は寝ているの?」と母親は言った。声の中に優しさがにじみ出ていた。
「うん、寝てるわ。」娘は微笑みながら答える。「もう疲れて寝かせたの。そっとしておいてあげる。彼女はフランスでのクリスマスが初めてだから、すごく楽しんでいるけれど。」
母親はその言葉を聞いて、少しだけ寂しさを感じた。娘が独り立ちして、自分の家族を持つことで、自分との距離がだんだんと広がっていく。その感情は、どうしても避けられなかった。けれども、それでも娘が幸せであることを願い、心からそれを祝っていた。
「良かったわね。」母親はしばらく静かに言葉を選びながら続けた。「フランスのクリスマス、素敵だと思うわ。」
「うん、すごく素敵よ。」娘は答えた。「でも、イギリスのクリスマスも懐かしいわ。あたなの料理、すごくおいしかったもの。ああ、思い出すわ。」
母親は少し笑った。「もう、そんなこと言っても。私だってあなたと一緒に過ごしたかったけど、仕方ないわね。」
電話の向こうで、娘の静かな笑い声が聞こえた。やがて、電話の音が再び静かに響き、しばらくの間、二人はただお互いの存在を感じながら、電話の向こうにいる相手の息遣いを聞いていた。
「また電話するからね。」娘はやさしく言った。「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」母親は言って、電話を切った。暗い部屋に一人だけ残された母親は、しばらくそのままでいた。
目を閉じ、心の中で娘の顔を思い浮かべると、次第に心の中が静かになった。娘がフランスで幸せでいるなら、それが一番だと思った。そして、家の中に広がる温かさを感じながら、母親は深呼吸をした。
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