28話 『銀河』ストルム
中央決戦開幕直後。〝最初〟から、戦況は大きく動いた。
夜空を埋め尽くす流星群の如き〝純白〟の弾丸雨が、瞬く間に吹き荒れたの。
そして、ドゥヘイブンの中央に位置する〝研闘師協会中央本部〟に降り注いだ。
うちとデワルスの初期配置は、中央本部すぐ近くの大通りだったからよく見えた。あの莫大な白い光。間違いない、『凶星』ペアの『巨星』だ。
〝二逢剣〟。威力と射程に優れながらも、致命的に命中精度が悪い『巨星』の斬撃光を『凶星』が補正する合技。うちみたいに守りに特化した研闘師じゃなければ、いくら殿堂入りだからってそう易々と躱しきれない凶悪な遠隔連結斬撃。
それが開幕直後に、『一番星』がいるはずの中央本部へと叩き込まれた。
歴代随一と呼ばれる、〝射撃の王〟たる『一番星』の下へと。
……やっぱり……イかれてる……あいつら。
そもそも、ドゥヘイブン全域を射程に収められるほどの『一番星』がいるからこそ、この七年間の中央決戦は開幕から静かな立ち上がりばかりだった。
だって、位置がバレれば奴の光弾が飛んでくるから。遮蔽物を潜り抜ける多種多様な〝曲げ弾〟や、固めた守りを粉砕する〝螺旋弾〟からは、一度狙われれば無傷では逃げきれない。
実際、数秒後には中央本部から〝二逢剣〟と同程度の金色の光弾雨が放たれ、今しがた純白の流星群が流れた夜空を逆行し、街の反対方向にあったビルの屋上へと降り注ぐ。『一番星』も平然と撃ち返してるけど、合技クラスの射撃を一人で遜色なく、間髪入れずに撃ち返せるのはやっぱり化け物じみてる。
でも、次の瞬間。
立て続けに放たれた二発目の〝二逢剣〟が空中で『一番星』の黄金弾幕と相殺し合い、広大なドゥヘイブンを飲み込む程の大爆発が夜空で炸裂した。
唐突な大迫力の砲撃合戦なんて試合展開に、街全体が色めき立つ。
「『一番星』に射撃戦挑むたぁ相変わらずガンギマってんな、あのがきんちょペアはよ!」
嬉々とした相棒を隣から見上げて、大盾を握り直しつつ、尋ねる。
「ん……どうする?」
正直、こんな試合展開は誰も予想していなかったはず。まあうちらはなんとなく『凶星』ペアが何かを仕掛けてきそうだとは思ってたけど。
だってあいつら、地区予選で完全試合(コールドゲーム)をした時も、地方本戦のサードレグでうちらに勝って大勝した時も、開幕からド派手に動いてたから。
「決まってんだろ。正直、ジャーニーとまたやる約束しちまったから向こうに行きてぇが……位置が悪ぃ」
大鎌を一振りして唇を舐めたデワルスが、間近の中央本部に目をやる。
「やんなら『一番星』だな。いくら奴でも、こんだけ派手に撃ち合ってりゃ隙はできる」
そう結論付けたデワルスに頷きつつ、同時にシールドマスクの下で唇を尖らせる。
「ちぇ……あいつら……なまいき……」
「ああ、あいつらがイかれた射撃戦おっぱじめたのは、〝こういう状況〟を作る為だろうな」
いくら『一番星』でも、絶えず降り注ぐ合技クラスの絨毯爆撃を撃ち返してたら、当然身辺に向ける警戒も、近付いてきた相手へ放てる弾幕も薄くなる。
つまり、〝他のペアが落としやすくなる〟。
勿論それは『凶星』ペアも同じ。むしろ、実力的にはあいつらの方が狙われたら厳しいはず。総取得点数が限られているバトルロワイヤルの都合上、このままだとがんがん『一番星』と『凶星』ペアに占領点を荒稼ぎされるし、放っておけないから狙われるはずなのに。
……そりゃ、『一番星』おとさないと……ゆうしょう、むり……でも……ごういんすぎる……。
今年勝ち残ってる面子から鑑みても、確かに『一番星』の射程と威力に張り合える遠距離攻撃をぽんぽん撃てるのは『凶星』ペアくらい。あの『巨星』の馬鹿げた光力と、それをいくら斬り飛ばしても消耗しない『凶星』の剣の技術はやっぱり侮れない。
でも、そんな二人の〝二逢剣〟でも、見て分かる通り『一番星』に致命打は与えられない。
こうやって試合展開を作ることはできたとしても……それをどうコントロールするつもりなのか。あまりにも『凶星』ペアへのリターンが少なくないか。
一体、今度は何を企んでいるのか。
ただぼうっともしてられない。うちらと同じ様に判断した他のペアが早速『凶星』ペアと『一番星』に接近したのか、夜空でせめぎ合う砲撃合戦が乱れ始める。
「行くぞ、ストルム」
「うん……でも、きをつけて……」
大盾を構えて、ぴったりとデワルスに続きながら警戒度を引き上げる。
「あいつら……ぜったい……なにかしてくる」
地方本戦サードレグで苦汁を舐めさせられた記憶が蘇る。あの時のラファロエイグの戦い方。
一挙手一投足に意思を感じる、戦況全体を見渡しているみたいなスケールの大きな戦法。小手先の技術は拙いけど、大局観があるの、あの生意気なコウハイ。
何より、うちがあいつの全力の斬撃光を弾き飛ばした直後、感じたモノ。
微かにだけど、殿堂入りや『一番星』にさえ匹敵するような、得体のしれない存在感。
戦ったから、剣を交えたから、わかる。
あのでか女は明らかに発展途上で……〝何か〟を持っている。
それは才能なのか、運命なのか、あるいは戦術なのかはわからないけど。
「『巨星』……『一番星』のつぎに……きけん」
断言すると、デワルスは驚いたみたいに片眉を上げつつ、しかし頷いてくれた。
「ああ……だが、強ぇのはオレ達だ」
「うん」
そうして中央協会へと乗り込むと、開けた中庭の噴水広場の中央に『一番星』は構えていた。うちらと同じ様に、近くが初期配置だったペアが三組、互いにけん制しつつも襲い掛かっている。しかも『一番星』にとっては不運なことに、三組とも殿堂入りペア。
ただ誰も油断はしていない。
だってアイツは、そんなうちらを七年間も叩きのめしてきた絶対王者。
指揮棒でも振るように、軽やかに、華やかに、『一番星』が宝剣を振り抜く。刃の無い、金管楽器じみた美しく精巧な宝剣。
凛と、美しい音色が鳴った、刹那。
『一番星』の身辺に夥しいほどの光弾が浮かび、半数で降り注ぐ〝二逢剣〟を撃ち落としつつ、残る半数でうちら四組へと光速の射撃を放ってくる。
半分の、更に四分の一。そのはずなのに。
「デワルス、うしろに」
大盾を構えてすかさず前に出て防御する。でも瞬く間に弾き飛ばされそうになる。巨人に手のひらではたかれたみたいな弾圧。
それに……見渡して、思う。
四組の内、防御に特化したうちがいる『蠍座』ペアには威力重視の面射撃で足を止め。
機動力に優れた『彗星』ペアには、射線が全く読めない曲げ弾で正確に削りに行き。
搦め手を得意とする『新月』ペアには行動の出鼻を挫くような速射で牽制。
そして危険な広域合技を持つ『星辰』ペアには、その核たる『星辰』へと角度を付けた螺旋弾の集中砲火を放ち、その上で。
〝二逢剣〟への迎撃の為に上空へと放った弾幕の中に潜ませていた数発の曲げ弾が、急角度で軌道を変えて意表を突き、怯んだ『星辰』の宝剣をものの見事に貫いて見せる。
「高威力の撃ち合いの最中なら、私を堕とせると踏んだか。好戦的で良いことだ」
唖然とはしない。アイツが絶対王者だなんてわかってたこと。
でも、戦慄する。
〝二逢剣〟に撃ち返しながら、今の一瞬で、四組全員に正確に調律した異なる弾種を放ってくるだなんて。苦し紛れやその場凌ぎの牽制じゃなく、明確にそれぞれの組を狙った効果的な射撃。事実、油断してたはずもないのに、『星辰』は打ち取られた。
「だが、温い」
サッカーコートほどもある広大な中庭の噴水広場で、『一番星』は退屈そうに首を鳴らす。
「この程度で……〝無冠の帝王〟、だったか?」
黄金世代の殿堂入り達を総称するその渾名を、煌びやかで耽美な唇で発する。その途端、うちもデワルスも、他の組も、身を引き締める。
そして次の瞬間、残った三組が迷わず合技を発する。
問答無用。余裕なんてうちらにはない。
目の前のこいつを、絶対王者を、この化け物をどうにかしないと。
一番にはなれない。
そんなうちらの様を、『一番星』は。
「…………」
狙いを定めるように、金瞳を細めて眺めていた。
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