18話 『蠍座』デワルス

「初代ジ・ヘリオスである『太陽』や、五百年前の闇の大浸食より天雲大陸を救ったとされる大英雄『盈月』に続き、今年は『一番星』が史上三人目となる八連覇に王手をかけています。また、昨年に引き続き『星雲』ペアの不参加など今年も波乱の予感がするサンライズフェスタ。〝殿堂入り〟している号持ちとして、『蠍座』のデワルスさんのご意見をお聞かせください」

 そんなインタビュアーの問いに、オレはマイクに指先を触れながら答えた。

「特に何も。オレ達はやるべきことをやるだけだ。ただ、今年こそ『一番星』には一杯食わせてやりたいとは思っているが」

「なるほど、相変わらずプロフェッショナルなご回答ありがとうございます」

 東部地方本戦を前にした記者会見にて、ローカル局の記者が続けて聞いてきた。

「ただ、中央決戦の一つ前。地方本戦に対する意気込みも聞かせていただきたいです」

「優勝以外眼中にねぇよ」

「注目のペアなどはいますか?」

「別に、どいつもこいつもオレ達の敵じゃあ……ああ、ただ、『幻月』ペアについては楽しみだ。あの二人は昨年も一昨年も地方本戦止まりだが、戦ったオレ達だからこそわかる。毎年見違えるほどに実力をつけてきている。まだ発展途上だが、ガッツがあるガキは嫌いじゃねぇ」

「なるほど、『幻月』ペアも大注目ですね。今年は極東地区予選を第三位での通過となり、組み合わせ的にも対決はセカンドレグからとなるはずですが、」

「……ん?」

 記者の言葉を遮って尋ねる。

「悪い、今なんて?」

「えっと、『幻月』ペアとの対決はセカンドレグからとなる……とは言いましたが」

「その前だ……あの二人が、三位? 極東地区予選で?」

「はい、そうですが……」

 唖然とする。あの二人はこれまでの三年間、ぶっちぎりで極東地区予選を制してきた。実際、最弱とされる極東地区にはあの二人の敵は居ないはずだ。

 でも三位ってことは、誰かに負けたってこと。

「一位は?」

 尋ねると、記者は手元の資料を確認しながら答えた。

「『凶星』ペアです」

「……『凶星』? 去年の中央決戦で『一番星』に派手に負けた、あの南の?」

 オレの問いに記者は確信を以て頷き、続ける。

「今年から『凶星』のジャーニーさんは極東地区に転属になったそうで、新たに組んだペアと共に予選では一位につけています。特にファーストレグでは、近年では『一番星』のプルトニーさんと『星雲』ペアしか成し遂げていない完全試合(コールドゲーム)を記録。その試合には『幻月』ペアも参加しており、完全試合を許したが為に取得点数的にも予選突破は絶望的と考えられていましたが、続くセカンドレグとサードレグで大勝を重ねて猛追。予選突破圏内ぎりぎりの三位に捻じ込んだという状況です」

「……へぇ」

 驚きつつも納得する。去年のサンライズフェスタで、『凶星』は『一番星』に突撃したから最初に落ちて最下位だったが、その剣技には目を見張るものがあったと記憶している。確かにあいつなら、個々じゃあまだ粗がある『幻月』ペアを負かすこともできるだろう。

 つっても、完全試合(コールドゲーム)となると……『凶星』だけじゃ無理だ。飛び道具がねぇから、占領点を取るのも苦手だしな。

 となると、新しく組んだペアってのも曲者だろうな。完全試合なんてただ実力があってもできるもんじゃねぇ。試合を丸ごとコントロールして破壊するほどの立ち回りが必須だ。『凶星』はそういう頭が良いタイプじゃねぇだろうし。

 隣を見ると、普段は無口で、人前じゃあ微動だにしねぇ相棒のストルムがオレを見ていた。

 頷き合う。未知の強敵だ。

「おもしれェ。帰ったらログを漁ってみることにする」

 そうして、宣言する。

「ただ、勝つのはオレ達だ」

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