10話 ラファロエイグ
「……よし、これでおっけーっと」
いつも通り朝早くに起きて、全員相部屋の寝室からみんなを起こさないようにそうっと抜け出す。朝の帯剣走巡回の時間だ。
そうやっていつも通りに走り始めた。テラスおばあちゃんを始めとした村の人達に挨拶をしつつ、隕鉄山脈を走破していく。いつもと変わらない光景。薄暗い山路。朝の星空特有の、薄青い空気。ひとりぼっちの巡回。
……そういえば、ジャーニーは付いてこなかったな。きっと、昨日一回走って嫌になったんだ。一人でやるって言ってたし、あとは互いに関わらなかったらペアも自然消滅するでしょ。
まあもし付いて来ようとしても、また置いてくつもりだったけど。
親友とペアを解消して逃げ出した私には、もう、宝剣を使う理由も権利もないんだから。
「……ふぅ」
そうしていつも通りに走って、いつも通りに折り返し地点の不掘の大隕石まで辿り着いて、湖のほとりで一息ついた時だった。
「よぉ、遅かったなでか女」
「ぎゃあっ!?」
驚いて振り返ると、木立の合間にジャーニーが居た。
「な、なんでここに……」
「あ? 朝の巡回は基本業務だろうが。つってもどうせお前のことだし、またアタシのこと置いてこうとするだろうと思ってな。だから先回りしておいた」
「あ、あはは……ナンノコト?」
言い当てられて咄嗟にとぼけてしまう。確かにジャーニーを連れていくつもりなら彼女を起こすべきだし、布団を確認するはずだ。でも私はそれすらしなかった。変に近付いて起こしたくなかったんだ。
「ったく、ぼやっとしてるようで油断も隙もねえ奴だぜ」
ため息を吐いてから、ジャーニーは「じゃあ行くぞ」と大隕石に向かって歩き出した。
「え? 巡回ルートはそっちじゃないけど……」
「巡回? 違ぇよ。何のためにこんな山奥でお前を待ってたと思ってんだ」
半身に振り返ったジャーニーは、親指を立てて大隕石を指さした。湖畔に浮かぶ超巨大な歪な球体。
その手前、岸辺には木製のボートが浮かんでいた。
「あの上なら、思いっきりやりあっても誰にも迷惑かけねぇだろ?」
「は? や、やり合う?」
「ああ、研闘だよ。これからアタシとお前で試合をする。変に避けたりなんだりめんどくせぇことしねぇでも、お前が勝ったらペアの解消でもなんでもしてやるよ。代わりに、アタシが勝ったらお前はアタシに付き合って、ちゃんとサンライズフェスタに参加しろ」
「…………はぁ!?」
いや一人でやるんじゃなかったの? どういう風の吹き回し? また鬼ババ様になんか吹き込まれた?
困惑していると、ジャーニーは続けた。
「だから、本気でやれよ」
「……っ」
本気でやれ。フラッシュバックするのは親友を壊してしまった時の記憶。血が凍る予感。
ただ気が付くと、ジャーニーが私の右手を握っていた。温かくて、指先の感覚が戻ってくる。
そして、彼女は私よりも頭二つ下から小生意気に見上げて来る。
「まあ、号持ちのアタシがてめぇに負ける確率なんざ万に一つもねぇがな」
挑発的な言葉に、ちょっとだけむっとする。いやそりゃそうなんだけどさ。じゃあそもそも戦う事すら無意味で無謀なんじゃないだろうか。
でも、私が口を開くより先にジャーニーは重ねる。
「だから、大丈夫だ」
そして掌を握り込まれた。ちっちゃな掌だ。私よりも指の関節一つ以上小さいし薄い。
だけど、力強く、私の手を引く。
「お前は、アタシの光だけを見てりゃいい」
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