第6話 ラファロエイグ

 エアリィ支部長が帰って来てから一時間ほどが経ち、私とモランジェとロンズは支部長室のデスクの前に並んでいた。

 そして、足を組んで椅子に座る鬼ババ様と、その隣に立つ黒色少女を交互に見つめる。

 えっと……どういう状況? なんで他所の研闘師のはずの黒色少女が鬼ババ様の隣で改まってるの? ていうかわざわざ制服で集合って何事? 黒色少女も、湖に入ったから手洗いしてあげた黒一色の協会制服に着替えているし。

 三人で戸惑っていると、エアリィ支部長はさらりと言ってのけた。

「それじゃあ紹介する。この度、南方本部よりこの極東第六支部に転属してきたジャーニーだ。先日のサンライズフェスタの中央決戦に出場し、与えられた号は『凶星』。これからは貴様らと共にこの支部の一員となる」

「「「……は?」」」

 ……ん? なんて?

 横に並んだ三人でアイコンタクトを交わす。今この鬼ババ様なんて言った? わたしにはジャーニーさんがうちに転属したって言った様に聞こえましたっ。いや、いくらあの鬼ババアでもこんなちんけな支部に号持ち引っ張ってこれるわけねーだろ。

 だよねぇ。

 だって号っていうのは、大陸中の研闘師達が参加するサンライズフェスタで、最終の中央決戦まで勝ち上がった猛者にのみ与えられる称号なんだ。一度でも中央決戦まで勝ち上がればもらえるわけだけど、そもそもこの天雲大陸には十万を超える研闘師が居て、中央決戦まで勝ち残れるのはたったの五十人だけ。

 ちなみに号を与えられてから三年以上一度も中央決戦まで残れなかったら剥奪されるし、逆に五年連続で中央決戦まで勝ち上がると〝殿堂入り〟して号を永久付与される。

 つまり号持ちっていうのは、近年において全十万人以上の研闘師の中で、トップ五十に入るレベルの実力を証明した化け物ってわけで……。

「それじゃあジャーニー、自己紹介を」

「うっす。つっても殆ど支部長さんに言われた通りだが……今日からここで世話になる『凶星』のジャーニーだ、よろしく。目標は来年のサンライズフェスタでジ・ヘリオスになること。その為に、アタシはここに来た。大会後に支部長さんに誘われてな」

 大真面目に言ってのける黒色少女もといジャーニーに対して、私は三人を代表して尋ねた。

「え、何言ってんの?」

「いや、だからこれからここで世話になるって」

「……マジ?」

「大マジだ」

 そこでようやく、思考が追いついた。

「「「はぁあああああああっ!?」」」

「うるさいぞ小娘共ッ!」

「「「すみませんっ!!!」」」

 支部長に一喝されて口をつぐみつつも、三人でアイコンタクトを交わす。

 いやマジで鬼ババ様とちびっこブラックは何言ってんの!? ほ、ほんとに『凶星』さんがうちに……ど、どどどどうしましょっ! つかあのチビ、こんな底辺支部でジ・ヘリオス目指すとか鬼ババアになに吹き込まれたんだ!?

 そんな私たちの言外のチームワークを気にも留めず、鬼ババ様は続けた。

「それと、ジャーニーはラファロエイグとペアを組んでもらう。秋から始まる来年のサンライズフェスタ極東地区予選のエントリーは始まっているから、忘れずに済ませておくように」

「はいぃ!? ペア!? 私が!? 号持ちと!?!? 急に何言ってんのこの鬼ババ様!?」

「────あ? 誰がババアだって?」

「すいませんほんとにちがうんですごめんなさいつい口が勝手に一生縫い付けておきますから許してください!」

 思わず漏らしてしまった悪態を必死に繕いつつ、そうっとジャーニーの方を見る。すると私よりも四十センチ近く低い所にある目と目が合う。怪訝そうな顔だ。良かった、私とペアを組むことに関してはジャーニーも疑問に思ってくれているらしい。

「あの、支部長さん。こいつとペアっすか……?」

「ああ、うちの人員はこの小娘共三人だからな。そしてモランジェとロンズは既にペアを組んでいて、余っているのはラファロエイグのみだ。必然、貴様のペアはラファロエイグになる」

「……はぁ」

 不服そうにしつつも、「まあいいか」とジャーニーは言った。

「どうせアタシは一人でやるつもりだ。邪魔しなけりゃペアなんざどうでもいい。足だけは引っ張るなよ、でか女」

「あ、あはは…………………ガンバリマス」

 そうして私は、色んな意味で〝堕ちて〟きた『凶星』とペアを組むことになった、らしい。

 どうすればペアを解消できるか。私の頭の中はそれで一杯だった。

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巨星ラファロエイグ @maefuji_tanka

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