第34話 失踪 その3
夏月は、朝から春葉の姿が見えないことを気にしていた。しかし、それが自分の発言や態度に起因する可能性を考えると、今は放っておくべきだと判断していた。春葉を追い詰めるような真似をしたくなかったし、彼女自身で気持ちを整理する時間が必要だと思ったのだ。
だが、昼休みになり、事態は一変する。今度は冬也まで姿を消し、教室に戻ってこなくなった。
――おかしい。
春葉がいなくなっただけなら想定内だ。だが、冬也までいなくなるとなると、状況が違ってくる。
夏月は冷静に思考を巡らせた。冬也の困惑した様子を思い返せば、事態が動き始めたのは間違いない。
その時だった。五時間目の授業中、教室の扉が勢いよく開かれる音が響いた。一瞬で教室中がざわつき、目を向けると、一人の女生徒が駆け込んできた。
「久遠先輩!」
真っ直ぐに夏月の元へ走ってきたのは、春葉の義妹、山名葵だった。
「春葉と、義姉と、連絡が取れません!」
息を切らしながら訴える葵の姿に、教室の視線は釘付けになった。
「朝からずっと春葉と連絡が取れないんです! スマホも通じないし、学園にもいなくて……。このまま、失踪なんてことになったら……!」
葵の声は震え、目には涙が浮かんでいる。
「落ち着いて」
夏月は冷静に声をかけるが、葵は取り乱したままだ。
「私が、余計なことを言ったからです……! 春葉が冬也先輩のことを諦めてくれればと思って、勝手にお父様に……! 私のせいで春葉が……」
涙を流しながら、葵は後悔の言葉を繰り返す。
「冷静になって、事情を説明して」
夏月は葵の肩に手を置き、顔を両手で包み込むようにして目を見つめた。
「大丈夫。春葉はただ感情に任せて行動する子じゃない。ちゃんと自分の意志を持っている。だから、何かを選んだのなら、その理由があるはずよ。私たちも春葉の意志に向き合わなきゃいけない」
その言葉に、葵は少しずつ落ち着きを取り戻した。目元の涙をぬぐい、息を整えると、夏月に事情を説明し始めた。
「実は……」
教室中が静まり返り、生徒たちが様子を窺う中、夏月は葵の言葉を一言も漏らさず耳を傾けた。
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