第19話 浮気の日々 その2
「今日は私が冬也に奉仕してあげる」
数日後の部室で、ソファに座っていた夏月が突然俺に言い放った。
「奉仕……というと、まさか!」
俺は期待に満ち溢れるという声音で夏月を挑発し、夏月もそれに乗ってくる。
「浮気ってこの部室ないじゃないとできないでしょ。だから、今日は私が冬也を気持ちよくさせてあげる」
蠱惑的に目を細める夏月。その誘ってくるような口調に、俺の心臓はドキドキだ。
「手でして欲しい?」
「手!」
「それとも口でして欲しい?」
「口!!」
刺激的な言葉に、俺はどうにかなりそうになる。夏月がふふっと笑って、セリフを続ける。
「……というのも一興なんだけど、今日は冬也の為に、それ用の道具を用意してきたわ」
「道具!!!」
さすがの俺と言えど、その強烈な単語にびくりとカラダが跳ねる。
「いや、俺、ただの男子高校生なんで、道具ってのはちょっと難易度高いというかなんというか……」
夏月がいきなり特殊な性癖を全開にして、ごついものを俺に使うとか言いだしたらどうしようかと震えていると、夏月はぽんぽんと自分の膝を叩いてこの上に頭を乗せろと指示してきた。俺は……躊躇しながらも夏月に従って膝枕の形になる。
息を飲んでいる俺に悪戯っぽく笑ったのち、夏月がポケットから取りだした細い道具は……耳かきだった。
ふーと息をつく俺に、夏月がニヤリと笑ってくる。
「大人の道具とかだったらどうしようとか思ってた?」
「いや、さすがにJKで大人の道具は……ないと言い切れないところが怖かったんだが……」
「そう。私にSッ気があるのは冬也ならもうわかってることね」
「俺を虐めるのはお願いだから許してくれ」
夏月は無言で、懇願した俺の頭髪を優しく撫でたのち、子供に言い聞かせるような声音を向けてきた。
「はい。耳を綺麗にしまちゅよー。いい子だから大人しくしまちょうねー」
もう好きにしてくれと、俺は横向きになり、その耳の穴に棒が入り込んできた。思ったよりもずっと優しい動きだった。中をくすぐる感触が気持ちいい。
「夏月はこういう事を他の人にもやってるのか?」
俺は目をつむったまま耳掃除の優しい感触に身をゆだねる。
「どう思う?」
耳かきを動かしながら聞いてきた夏月に俺は返す。
「慣れてるって感じる。夏月にとって俺は遊びだが、いつもは部長にしてあげてるんじゃないのかって想像してしまう」
「妬ける?」
「…………」
俺は心の中に沸き起こった嫉妬を押しつぶした。夏月にとって俺は遊び。ただの浮気。俺は春葉の為のストレス解消。同意の上で夏月を利用しているという間柄だ。
と、夏月がふっと俺の耳に息を吹きかけて垢を払う。それから夏月の声が入り込んできた。
「今は他の男のことは言わないで。冬也も私だけを見て。私も冬也だけのことを考えるから」
その言葉の中に、心中のいらつきとざわつきが溶けていく。夏月が、そんな俺の耳元で甘く囁く。
「今は二人だけ。二人だけでイケナイことをしている秘密の関係」
俺の中の春葉とのすれ違いで生じたストレスは溶けていく……のだが、そこに夏月が入り込んでくる。
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