第三話

 龍気が楽しそうに話すその内容に俺は愕然とした。

 それはバレー雑誌の中の特集で


 ”全中参加チームの中からイケメンオールスターチームを作るなら”


 という内容でSNSも使って大々的に行われた読者参加型企画だ。

 選考基準は単純で、出場チームの選手の顔写真一覧がありそれには番号が振ってある。

 推しがいればその番号を投票するというものだった。


 何で俺が選ばれたのかわからないし、この結果は俺の恥ずかしい歴史であり、ヤダセイという呼び名もこの企画で付けられたものだった。


「うわぁ、そうだよな。そうだよなぁ。」


 改めて目の前の3人を見るとなんだか壮観だ。

 企画としてはチームメンバー選出ということで最終の順位までは発表されていなかったが、目の前の3人は明らかに上位だったはずである。



「そうだ、俺だけヤダセイってなんか恥ずかしいから俺も聖弥でいいよ。」

「そうかー? ヤダセイってわかりやすいし俺は良いと思うけど。」

「ヤダセイってその雑誌企画でついたあだ名なんだよね。」

「じゃあ聖弥でいっか。とりま入学記念に写真とろーぜー。」



 幸司が軽い感じで答えつつさらっと話題を変えてくれる優しさ。



「ハイチーズ。」

「俺のでも撮ってー。それで幸司が撮ったやつは送っといてー。」

「はいよーって俺、凌の携帯とか知らんから教えてー。」

「あーじゃあ俺のでもー! 俺はこのカメラアプリで!」


 俺からしたらイケメンに囲まれた記念写真なんて恐れ多いが良い気分でもあった。


「聖弥、聖弥? どうした?」

「あぁ、ごめん。ちょっと考え事。」

「あー、聖弥は記念写真とかで何故かよそ見してたりする奴だな!」


「あははは。」


 みんなで声を揃えて笑う。


 そして俺たちが写真を送り合ったりしていると先生から声がかかった。



「ほーら、もう今日は良いだろ? 明日から毎日会うんだしお前たちは同じ部活だろうが。教室締めるぞー。」

「うぃーっす。」

「お母様方も今日はご足労いただきありがとうございました。これから3年間よろしくお願いいたします。」

「あら、もうそんな時間? たかちゃんごめんなさい。これから幸司をよろしくお願いしますね。」

「ははは。」



 先生は笑っていた。


「それじゃ先生また明日ー。」

「明日はもうちょっと時間に余裕もって来いよー。」

「了解っす。」


 それから俺たちも下駄箱にみんなで向かう。


「先生と幸司のお母さんって知り合いなの?」

「知り合いというか、先生俺の兄ちゃんの親友。」

「へー。なるほどね。」

「なーなー、聖弥と凌ってこのまま寮に行くのか? だったら俺も寮見たいなー。」


 龍気がそう聞いてくる。


「えっ、龍気だけずりーぞ! 俺も見てーし!」


 俺は凌と目を合わせて苦笑いをした。


「あー、俺は荷物片付けたりしなきゃだからまた今度にしようぜ?」

「あれ? もしかして。」


 寮は2人部屋だ。

 俺は昨日入寮したが相部屋になる相手は今日来ると聞いていた。


「凌と俺もしかしたら同じ部屋かも。」

「あらそうなの?」


 凌の母さんが話しに割り込んでくる。


「そうだったら凌も心強いわよね。良かったじゃない。不安がってたから心配だったのよ?」

「別に不安がってなんかないから。どんな人と一緒か気になってただけ。」


 凌が照れ隠しをするかの様に口早に答える。

 でも俺も同じ気持ちだった。


「もし凌が一緒ならめっちゃ嬉しい! 嬉しすぎる!」

「なんかずりー! 母さん俺も寮に入る! 聖弥と同じ部屋にしてもらう!」

「はぁ。あんた馬鹿なの?」

「だってー、絶対楽しそうじゃん!」


 幸司にそう言われて俺は嬉しかった。

 俺も幸司とも同じ部屋で生活したい。

 楽しいだろうなー。


「母さんたちはどうするの? 帰る?」


 何事もないかのように笑顔で龍気が質問する。


「私たちはどうしましょうか? ちょっと移動しますけど私が好きなカフェがあるのでそちらに行きます?」

「あら、そういうお話しなら是非。」

「聖ちゃんちゃんと連絡してね。」

「うん、わかってるって! 母さん、じゃあまたねー!」

「凌も、ちゃんと荷物受け取ったら連絡しなさいね?」

「わかったわかった。」

「聖弥君も凌君も、なんか合ったら頼ってくれて良いからね?」

「そうよ、龍気も世話になるんだしおばちゃんたちも話し聞くし相談乗るから。」

「あら、気を使わせてすみません。」

「いえいえ、これから3年間同じクラスで同じ部活ですし、これも何かのご縁です。」


 母さんたちは一生話しが終わらなさそう。


「龍のお母さんも幸司のお母さんもありがとうございます! じゃあ母さん俺たち行くねー!」



 幸司が別れ際に母親に


「母さん、フルーツいっぱいのタルト買っといて!」


 イケメンがタルトを母親に頼んでるのがなんか微笑ましくてほっこりする。


「聖弥、何ぼーっとしてんだよ? 行こうぜ!」

「あっ、ごめん! イケメン3人組に目を奪われてしまったー!」

「あはは、聖弥こそだろ! イケメン聖弥様ー。」


 幸司がからかってくる。


「悪ノリやめてー! 恥ずかしい! 幸司置いて行こう!」


 そんな感じの軽い会話をしながら4人で寮に向かう。

 凌の部屋番号を聞くと、想像通り俺と同じ部屋だ。


「おおっ! やばっ! ガチ同じ部屋じゃん俺ら!」

「ま? ガチ嬉しいんだけど!」


 そう言って俺に後ろから抱き着いてくる凌は、絶対に普段は見せないであろう表情ということはわかる。


 イケメンに抱きつかれのは悪くないけど、凌ってやっぱりデカいなー。

 俺も小さい方ではないが、凌が後ろから抱き着いて収まり良い感じになってる自分がなんとも不思議な気分だ。

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