12/21 冬至
『
今暫く様子を見るが、元に戻らぬようならば鬼界に行き、翠の事を尋ねた方がよいかもな。
そう、
これはもう一刻も早く鬼界に連れて行かなければと考える一方で、腰を据えて話を聴くべきだとの考えも浮かんだ野良。後者へと傾き、名前は何だと問うた。
「ぼくの名前は
「霊。つまり、成仏できず彷徨っていたところ、翠に取り憑いたのか?」
翠に霊が憑いていた事に気付けなかった事実に、思わず渋面顔になった野良はしかし、己の失態を引きずるよりも今は一刻も早く、この少年を成仏させる為に尽力しようと考えたところ、柳青は少し違いますと言った。
「まだ辛うじて生きています。半分死んでいるような状態ですが」
「ならば、肉体への帰り方が分からぬという事か?」
「いいえ。帰り方もわかっています。ただ、もう少しだけ。翠さんの中は居心地がよくて、もう少しだけと、甘え続けていました。翠さんも好きなだけ居ていいと言ってくれました。ただ今日は、翠さんが代わってくれと言いましたので、肉体の主導権をぼくが持って、翠さんの代わりに野良様の力になろうと行動に移す事にしました。ご迷惑でしたでしょうか?」
「いいや。実に力強い協力者を得た。頼もしい事だ。ならば、今日は我が貴様に甘える事にしよう」
「翠さんの中から出て行けとは言わないんですね」
「翠がいいと言っておるのだろう? ならば我がどうこう言う事はない。貴様の好きにせよ」
「ありがとうございます。ぼく、名物料理を作っている和食店を知っているんです。旬の物を使っていてとても美味しいんです。今は。あ。今日は冬至なので、かぼちゃの煮物、かぶの柚子入り甘酢漬け、鶏の柚子山賊焼きが提供されているはずです。案内します。行きましょう」
「ああ」
野良は微笑を浮かべながら、無表情は変わらないが、心なしか嬉々としているように見えた柳青の後を追ったのであった。
(2024.12.21)
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