12/20 伊達眼鏡




和干菓子わひがし国』の人間界の休憩所にて。


「名物料理は未定、名物菓子は鬼界の五色プリン、名物酒は鬼界の金柑唐辛子の酒、名物土産は人間界の彩り麩。名物菓子と名物酒は鬼界の物なので、名物料理は人間界の物がよろしいのではないですか?」

「ああ」

「では探しに行きましょう。あ。野良のら様。傘はお持ちですか?未だ晴れ間が覗いているとはいえ、いつ何時雨や雪が降るか分かりませんから」

「ああ」


 キビキビハキハキスタスタパッパッ。

 漸く怠惰な性根を叩きなおして、真面目に生きる事を選んだのか。

 それが事実であったのならば感激の涙も滂沱と流せそうだと、野良は思ったが。


(翠は幼年期に真面目過ぎたがゆえに、大人になってのち、怠惰な鬼となってしまったのか?)


 『洋仁紫ようにし国』へと帰るれいを見送って数時間後。

 野原から移動した休憩所にて。

 疲弊して少年の姿となって眠っていたすいが不意に目を覚ましたかと思えば、どこから取り出したのか。分厚く渦巻きが描かれた伊達眼鏡を装着しては、どこからか紙の束と筆を取り出して、クリスマスパーティーに持って行く物を書き出し、歩き出したのである。

 幼児化して記憶も退行しているのかと思いきや、現状を把握しているのでそうではないらしいのだが。


(そもそも疲弊しておるのならば小鬼の姿になるはず。だが、翠は、少年の、人間の姿。何故だ?)


 歩き方を見るに回復はしているはず。

 であれば、大人の姿に戻ってもおかしくはないのだが、少年の姿のまま。


 野良は品行方正な翠の小さな背中を注意深く見つめながら、後に続いたのであった。


(今暫く様子を見るが、元に戻らぬようならば鬼界に行き、翠の事を尋ねた方がよいかもな)











(2024.12.20)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る