12/19 金盞花




 『和干菓子わひがし国』の人間界の野原にて。


「本当に我が主がご迷惑をおかけしました」


 久々に晴れ間が続く中。

 天使の梯子が降り立つ金盞花に口づけて幼児化を解いた野良のらは人化したまま、深々と頭を下げるれいに頭を上げるように言ったが、伶は頭を下げたままだった。


「ずっとそのままでおるつもりか。さっさと『洋仁紫ようにし国』に帰らぬと、吟華ぎんかが困る困ると無意味に部屋を歩き回り続けるぞ」

「………はい」


 ゆっくりと頭を上げた伶は野良と野良が抱える少年を見た。

 ぐっすり眠っている少年は、すいであった。

 力を使い果たして、幼児化してしまったらしい。


「流石は野良殿です。突然善哉屋から駆け走った時は見失うまいと必死で後を追いましたが、まさか幼児化を解く手段を知っているばかりか、幼児化した状態でその手段を的確に果たすとは感服の至りです」

「幼児化を解く術を小鬼が知っておったのだ。運がよかった。術を実行できたのは、晴れ間が覗かせてくれた、翠のお陰である。面倒くさがり屋のこやつがよくもまあ。もしかしたら一生分頑張ったと、ずっと寝続けるやもしれぬな」

「その時は責任を持って起床薬を必ずや手にしてお届けしますので、ご安心ください」

「うむ。まあ。しかし。今は見逃してやろう」

「慈愛に満ちた御心、素晴らしいです」

 

 うっとりと、フルプレートアーマーの裏で恍惚とした表情を浮かべながら、伶は野良を見つめた。


(叶うのならば、野良殿を崇め敬う主として、仕えたかった。ですが。仕方ありませんね。僕が居ないと吟華殿が困りますから)











(2024.12.19)



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