12/18 天使の梯子




 『和干菓子わひがし国』の人間界の寒天のただ中にて。


 もしかしたら、なんて、考えてしまった。

 もしかしたら、幼児化してしまったから、ずっと曇天ないし雨や雪なのではないか。

 この季節はそもそも晴れ間が出る方が稀だと分かっていても。

 考えてしまったのだ。


『もう今月はずっと曇り空さ』


 善哉屋に居た陰陽師にこれからの天気予報を尋ねれば、そう返されたすいは決意した。

 野良のらを戻す為には、太陽の光が必要なのだ。

 太陽の光が照り輝いている時、地上の人間界に咲く橙色の金盞花に口づけなければならないのだから。




「さあってと。野良様には元の姿でクリスマスパーティーに参加してもらわないといけませんからねえ。まだまだ土産も揃えないといけやせんし」




 人化を解いて元の緑鬼の姿に戻った翠は、大きく大きく、深く深く、凍てつく空気を身体に取り入れてのち、ゆっくりゆっくりと身体中に巡らせては熱を取り入れさせ続けた。

 上昇する体温に、しとどに汗が滴り落ち、酩酊したが如く頭がくらみ、手足の指先から力が抜けていく。

 体力の限界まで体内で空気を循環させた翠は唇を強く結び、両頬が破裂してしまうのではないかと危惧するほどに大きく大きく膨らませてのち、足の指先から頭の天辺と身体の隅々まで行き渡る空気を一気に寒天に向かって放った。




「さあってと。じゃあ。帰りやすか。ね」





 へろりへろへろと。

 天使の梯子に背を向けた翠は人化しては、地上へと力なく、それでも力の限り急いで降下していったのであった。




「ずっと広範囲を晴れさせる、なんて、そんな大それた事は俺にはできやせんからねえ。せいぜい、ええっと。どれぐらいでしょうかねえ」











(2024.12.18)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る