12/17 苺のミルフィーユ
『
サクサクの亜麻色の香ばしいパイ生地。
しっとりの浅黄色の檸檬果汁入りたっぷりのバニラビーンズ甘さ控えめのカスタードクリーム。
ちょこんと中央に空洞と白色が控える真っ赤で甘酸っぱく果汁たっぷりの苺。
一番上には粉砂糖を振りかけた苺を丸ごと一個に乗せまして、三枚のパイ生地の合間には隙間がほどよく作られて、カスタードクリームと半分に切った苺が挟まれています、長方形のこのケーキの名前は。
「何だ?」
人化したままで幼児化もしてしまった
善哉屋の店の片隅の長椅子を借りては、横に並んで座っていたのである。
勢いは治まったものの、まだ雨がしとしとと降っていた。
「これは檸檬カスタードの苺のミルフィーユと申します」
「美味い」
「ありがとうございます」
「貴様が作ったのか?」
「いいえ。僕が仕える主が作りました」
「そうか。今度会ったら礼を言っておこう」
「はい。きっと飛び跳ねて喜びますよ」
よほど気に入ったのだろう。
野良は最初の一口で苺のミルフィーユを半分食べてしまったのだが、二口目からはフォークを器用に使って小さく小さく食べ続けていた。
可愛い。
龍の姿も人化した姿の野良も直接会った事がある伶は、この愛らしいぷくぷくの子があのような凛々しく厳めしい方になるのかとしみじみと思いながら、
『ただ楽しんでもらいたいってお祈りしていたんだよお』
吟華を詰問した結果、お祈りの内容を聞く事に成功した伶はすぐに詫びの品を作るように吟華に言った。
お祈りの内容自体は危惧するものではなかったのだが、嫌な予感はなくならなかった。
強く強く祈った事に加えて、守護神である吟華の祈りが何の作用ももたらさないとは思えなかったのだ。
何もなければそれでいい。
素早く作った吟華の詫びの品である、檸檬カスタードの苺のミルフィーユを持って、『
『ちょっくら、用事があるから、野良様をお願いしやす』
伶は幼児化の状態の野良を目の当たりにしては、直接会った事がある野良とは違い、書類と写真と吟華からの説明でしか知り得ない翠に、吟華がしでかした事を説明して深々と謝罪をし、詫びの品である純白の箱に入った六個の苺のミルフィーユを手渡した。
すると翠はそのまま野良に純白の箱を手渡し、食べ終わるまでに帰ってくると野良に言って、立ち去って行ったのだ。
「早く翠も帰って来ればいいのにな」
「はい」
幼児化して記憶も退行しているはずなのだが、翠へも伶へも厚い信頼を寄せてくれる野良に、伶は早く戻ってきますよと優しく言ったのであった。
(2024.12.17)
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