12/16 フローティングキャンドル




 『洋仁紫ようにし国』の吟華ぎんかの自室にて。


「吟華殿。失礼します」


 黄緑の葉のレモンパーム。

 青や白、薄紫、ピンクの小さな花を咲かせるローズマリー。

 この二種類の植物が優しく水に包まれている、筒状の小さなガラスの器の中で、水面に浮かせているフローティングキャンドル。

 吟華は部屋を暗くしては火を灯して、淡くも幻想的な光を放つフローティングキャンドルの前でお祈りをしていたのだ。


「今日の分の仕事は終わったから安心して」

「ええ。拝見しました。ですので、僕も帰宅する旨を伝えに来ました」

「うん。ありがとう」


 自室の扉を開けたれいに背を向けたまま話す吟華に、伶はこれ以上邪魔をしてはいけないと、敬礼をしてのち静かに扉を閉めた。


(熱心にお祈りしていましたが。恐らく、野良のら殿に関わる事でしょう………嫌な予感がします。野良殿に迷惑をおかけしていなければいいのですが。やはり問い詰めた方がいいでしょうか。いえ、ですが、お祈りの内容を尋ねるのは御法度)


 扉の前で佇む事、一分間。

 伶は閉めたばかりの扉を素早く開いては、吟華との距離を一気に縮めて何をお祈りしているのかを問い質したのであった。











(2024.12.16)



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