12/15 くもりもよう
『
「
とぼりとぼとぼとぼりとぼ。
力なく歩く
すやりすやすやすやりすや。
心地よい眠りに就いている野良から応えはない。
とぼりとぼとぼとぼりとぼ。
すやりすやすやすやりすや。
野良はとても軽かった。
羽のようにと言っても過言ではない。
魂、心、肉体と、密度が高い野良がこんなに軽いなんて意外だ。
などと、翠は思わなかった。
野良が人化している事が、元の姿である龍の時よりも軽い要因ではあるだろうが、それだけではない。
野良は今、幼児化してしまっているからだ。
「なあああんでこんな事になっちやったんでしょうかねえ?」
闘鶏鬼をどちらが先に捕まえられるか勝負しろ。
翠が鬼界でそう言った野良と散り散りになって闘鶏鬼探しに奔走する事、ほにゃらら時間。
どうせ自分も闘鶏鬼を捕まえないとここから離れないだろうと考え、奮闘して一匹の闘鶏鬼を捕獲した翠の前に現れたのは、闘鶏鬼で全身を隠した野良だった。
流石だなと思うと同時に、あれ何だか小さくなっているようなと身体を横に倒して倒して視線を合わせると、手で掴んで闘鶏鬼を顔から外した野良がとびっきりの笑顔で言ったのだ。
我の勝ちだ。
とすん。
とても小さく控えめな矢が胸に刺さるのを感じた翠。思わず口を抑えては、目をかっぴらいて可愛いと呟いてしまったのである。
『原因はよく分からないけど、幼児化を元に戻す方法なら知ってるよ』
野良と翠を地下の鬼界に連れて来た
曰く、太陽の光が照り輝いている時、地上の人間界に咲く橙色の金盞花に口づけると、元の姿に戻るらしい。
花菜に礼を述べて、五色プリンは後日取りに来ると女将鬼に言って、急ぎ人間界に戻った翠は金盞花をすぐに発見はできたのだが。
「なあああああんで、人間界は曇ってばっかりなんでしょうかい?脱兎の如く、雨や霙が来ては去って行くのでしょうかい?」
突然の雨の襲来により、足に力を入れて走り出し、店へと身を寄せる。
「こんな形で来たくなかったんですがねえ」
翠は店子から手拭いを受け取りながら独り言ちる。
駆け込んだ先は、奇しくも善哉屋であった。
(2024.12.15)
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