12/15 白松




 『和干菓子わひがし国』の地下の鬼界の、山ほどに大きい巨大な白松にて。

 

 様子がおかしい。

 野良のらすいも宿泊施設から人化の状態で歩いてここに辿り着く事、二時間。

 翠が世話係として野良の下に来てから、もう少しで一年になろうか否かのまだまだ短い期間ではあるものの、あのような無邪気な笑みを見た事は、あのような全身全霊で楽しもうという姿勢は、一度たりともなかった。


(金柑唐辛子が浮き沈みする真っ赤に染め上がる露天風呂に、野良様が変容してしまう成分が含まれていたんだろうか?う~~~ん~~~。まあ。厳めしい顔ばっかりするよりは、時たま無邪気な笑顔もいいんじゃないかと思う。けれども。あのはしゃぎっぷりも望ましいけれども………それとも。白松の影響。か?)


 望むと望まざるとに関わらず。

 極まれに白松が放つ眩いほどの白光に当たった者は、ひた隠しにしている本来の自分を引きずり出されては短時間、露わにされるという。

 単なる伝説だ。


(と、思ってたんですけど)


「ほら。翠。行くぞ。どちらが先に闘鶏鬼を捕まえられるか。勝負だ」

「へいへ~い」


(まあ。無邪気だろうが厳めしかろうが。面倒な事に付き合わされるのは変わりないってこった。はあ)


 飛び跳ねながら巨大な白松を登って行く野良を薄目になって眺めてのち、えっせらおっちらと後に続くのであった。











(2024.12.14)



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