12/13 五色プリン




 『和干菓子わひがし国』の地下の鬼界にて。


 また厄介事を頼まれる前に戻りやしょう。

 すいにそう言われた野良のらは翠だけ残ってもいいと言ったのだが、翠は頑として受け入れなかった。


 厄介事を頼まれる事が嫌なだけではなく、故郷に居るのがむずがゆいのではないか。

 鬼界での翠と赤鬼、青鬼、黄鬼、黒鬼や花菜はな、他の鬼たちとのやり取りを見ていて推測した野良は微笑ましく思いながら、わかったと了承。

 ただし地上の人間界に戻る前に、手に入れたい物があるとだと翠に言った。


 宿泊施設の女将鬼から勧められたのだ。

 この付近で手に入る二つの鬼界の土産を持って行くようにと。

 一つは、金柑唐辛子の酒。

 これは女将鬼からもらった。

 そしてもう一つ勧められたのは、闘鶏鬼の卵で作った五色のプリンだった。

 もしかしたら、鬼界で一番強いのではないかと囁かれている希少で貴重な闘鶏鬼の卵は、栄養満点で濃厚な味がして、この闘鶏鬼の卵で作った料理は何でも絶品になるのだが、特に五色プリンが鬼界一だと鬼たちは誰もが声を上げるらしい。


「卵を取って来れば、女将鬼が作ってくれるらしい。賞味期限はクリスマスパーティーまで優に持つとも言われたので、早速取って来るぞ」

「え~。闘鶏鬼ってのは、白松にしか生息していやせんよ」


 翠は宿泊施設を背にして前方を見た。

 この距離では豆粒ほどの大きさにしか見えないが、実際は山ほどに巨大で、時折眩いほどの白光を放つ一本の白い松であった。


「しかも、闘鶏鬼は素早い上に戦闘好きで、捕まえるのに苦労するんですよ。俺、どこかで売っているのを探してきやすから、待っててくだせえ」

「待て」


 野良は背を向けて走り出そうとする翠の着物の後ろ衿を掴んでは、動きを停止させた。

 鬼界では、翠の左手首に巻かれた、野良から離れられないという野良の髪の毛の効力は無効にしていたので、物理的に止めたのである。


「行くぞ」


 もう少し、ぽやぽやほんわかしていてよかったのに。

 鋭さが戻ってしまった野良に、翠は項垂れながら、へいと返事をしたのであった。











(2024.12.13)



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