12/11 露天風呂




 『和干菓子わひがし国』地下の鬼界にて。


 ちゃぷんちゃぷん。

 時折小さな水音を立てながら、野良のらは本来の姿である龍に戻っては露天風呂を堪能していた。


(確かに、褒美を貰いたいところだとは思ったが)


『松茸料理を一緒に食べやしょう。は、鬼界では、露天風呂をひと風呂浴びてくだせえ。という意味なんですよ』


 酔っ払いの戯言だ。

 野良がすいの発言を斬って捨てようとしたところ、赤鬼、青鬼、黄鬼、黒鬼が翠と共に、横一列に整然と並んで土下座をしてきたのだ。


『『『『『一年間守護神としてお世話になっている礼に、早くはありますが、鬼界自慢の露天風呂に入って行ってください!元のお姿でも手足を伸ばせるほどにとても巨大な露天風呂ですので!野良様が入っている間は、誰も入れぬようにしておきますので是非に是非に!』


 松茸問題解決に取り掛かっている際の、ばらばら好き勝手具合はどこへ行ったのか。

 声を揃えて心を一つにして願い出る五色の鬼たちの迫力に、ほんの僅かに気圧されてしまうと同時に、めらめらと、胸が熱くなってしまった野良。任務中ではあるものの、五色の鬼たちの心遣いを無下にもできぬと受け入れてしまって、今。

 ぷかりぷかり。

 金柑唐辛子が自由気儘に沈んでは浮かび、真っ赤に染め上がる露天風呂を全力で堪能しているのであった。


「………うむ。五臓六腑に染み渡る」











(2024.12.11)



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