12/10 褒美




 『和干菓子国』の地下の鬼界にて。

 一日、いや、二日だろうか。

 時に兵糧丸を食べながら、時に竹筒に湧き続ける水を飲みながら、時に浅く短い就寝を取りながら、時に話しかけてくる花菜の相手をしながら、時に鬼界の問題事について訴えてくる鬼の相手をしながら、時に松茸料理を断りながら、時に一服の勧めを断りながら。

 野良のらは立ったまま、すいが赤鬼、青鬼、黄鬼、黒鬼ら仲間と共に、松茸問題を解決する様を見つめていた。


 想像とは違っていた。

 五色の鬼が揃えば力を合わせて、互いに足りないところを補い合いながら、時間をかけずに颯爽と解決できるのかと思いきや、そうではなかったのだ。

 互いに罵り合ったり、周囲の鬼とも罵り合ったり、放棄したり、長い休息を取ったり、散り散りに別れたり、少し歩み寄っては五色同士で、または周囲の鬼も巻き込んで話し合っていたり、松茸料理に舌鼓を打ったり、どんちゃん騒ぎになったり。

 そうして、二日もの時間をかけて、漸く。漸くだ。松茸問題を解決したのである。

 どれだけ野良は我慢しただろうか。足を踏み止まらせ続けては、問題解決を果たすであろう翠を辛抱強く見守り続けた。


(我の方が褒美を貰いたいところだ)


 意気揚々と近づいてきては、折角治まっていた酒の匂いをさらに強くさせた翠は、褒美をくださいと言ったのである。

 約束は約束だ。

 褒美は何がいいかと野良が問えば、にっかりと天真爛漫の笑顔で以て、翠は言った。




 松茸料理を一緒に食べやしょう。











(2024.12.10)



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