12/9 五色




 『和干菓子わひがし国』の地下の鬼界にて。


「あのね。あのね。採っても、採ってもね。次から次へと松茸が生えてきちゃってね。人間界で高く売っぱらえるって喜ぶ鬼も居たり、どんな調理方法で食べようかなって楽しむ鬼も居たり、松茸の香りが嫌いだから早く燃やしちまえって怒る鬼も居たり、家族や友達に食べさせたかったなあって悲しむ鬼が居たりね。すっごく、すっごくね。ごちゃごちゃになってね。お正月の準備ができないって、悲しんだり怒ったりする鬼も居てね。だから、すい様にも鬼界に戻ってもらったの。翠様たち五色の鬼様たちは揃わないと、みんなの困り事を解決できないから」


 ぴょんぴょんぴょんぴょん。

 赤松が乱立しては松茸が繁茂する地帯で、花菜はなが野良に背負われたままの翠を見上げて訴えるも、人間に化けたままの翠は俺は無理かなあと言った。


「ここにさあ。『和干菓子国』の守護神のお、野良のら様があ、居るからあ、野良様にい、頼った方がいいんじゃないかなあ?」

「もう酔いも醒めたであろう。さっさと役目を果たしに行くがよい」


 野良は翠を抱えていた腕を解いては、翠を地面へと落とした。

 地面との距離も短かった上に、松茸が緩衝材となっていたので衝撃はあまりなかったが、翠は尻が痛いと涙声で言った。


「さっさと仲間たちの元に行き、混乱を収めて参れ」

「………混乱を収めたら、何か、ご褒美をくれやすかい?」


 誰が褒美などやるか。

 噛みつく勢いで翠の軟弱な精神を怒鳴ろうとした野良はしかし、鞭だけではいけないかと、花菜を見下ろしながら考えを改めて、分かったと言った。


「褒美をやる」

「じゃあ。行ってきやす」


 翠は屈めた腰に両手を当てながら、ゆっくりゆっくりと赤鬼、青鬼、黄鬼、黒鬼が集まっている場所へと向かうのであった。











(2024.12.9)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る