12/6 松脂ろうそく




 『和干菓子わひがし国』にて。


「『和干菓子国』の国樹である松を使った土産として、松脂まつやにろうそくは欠かせぬな。火を点けずとも松の香りを漂わせるこれを置いた部屋で睡眠を取ると、疲労回復が早いという効果もある。うむ。これほど我が国の土産として相応しい物はないな」

「それを土産に持って行くんですかい?」


 すい野良のらが持っている、竹の皮で巻いた長細い筒状の松脂ろうそくを見下ろした。


 伝統品として国に認定されている松脂ろうそくは、松脂を芯に竹の皮や笹の葉で巻いた長細い筒状のろうそくではあるが、今現在では様々な形が作られているものが売られている上に、自分の好きな形を作れる工作体験もできるのだ。


「クリスマスパーティーってのは、それはそれは煌びやかなものなんでしょう?それは、地味じゃないですかい?」

「堅実性があるゆえ、これがいい」

「………」


(きちきちかっちりしているとは聞かされていたけど、噂に違わず本当に生真面目だなあ。窮屈。ではないんでしょうねえ。野良様は。ですが。俺は。やばい。窮屈だ。息抜きがしたい。賑やかな町では特に、羽を伸ばしたい)


 翠が自分の左手首を見つめれば、そこには野良の漆黒の髪の毛がぐるぐるに巻かれていた。ずっと手首を掴まれているのは恥ずかしいと野良に訴えたところ、代替案として巻かれてしまったのだ。


(町に居る間は離れられないって。最早呪いっすよねえ。はあああああ。これはもう面倒だなんだ駄々を捏ねている場合ではありやせんね)


 翠は眠たげな目つきにほんの少しだけ力を込めたのであった。











(2024.12.6)



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