12/5 兵糧丸




 『和干菓子わひがし国』にて。


「一昨日俺だけ善哉を食っちまったので、今日は俺が奢りやすよ」


 昨日、すいに案内してもらった十店もの彩り麩屋に寄って、吟味に吟味を重ねたのち、納得のいく飾り麩を買い求めた野良のらと翠は一度、空へと帰郷。

 身体を休めては翌日の十二月五日である本日、再び町へと降り立ったのである。


「不要だ。任務中ゆえ、我は黒松と赤松の樹皮と松脂で作った兵糧丸のみを食す」

「え゛!?」

「何だその素っ頓狂な声は?」

「いえいえいえいえ。今は任務中ではないでしょうや」

「何を言っておる。他国のクリスマスパーティーに持って行く土産を探し求めるという任務中ではないか」

「友達のクリスマスパーティーに行くのは任務ではないでしょうや」

「我は今、守護の役目を担っておるのだぞ。その我を誘うという事は、私事ではない。公事だ。いくら、気軽に手軽に気楽にどうぞと書かれていたとて、参加する人数が少ないからとて、文言通りに受け取ってはならぬ。気を引き締めて、クリスマスパーティーに挑まなければならぬのだ。分かるな、翠」

「え~~~」


 いや絶対にあの招待状の主は友達感覚、もしくは、あわよくば一歩先を進めたいという下心を持っているに違いない、と翠は招待状を読んだ時に感じ取っていたのだが、どうやら野良は微塵も感じ取ってはいなかったらしい。


(え~~~)


 この生真面目な主を説き伏せる事ができるだろうか。

 翠は頭をひねった。

 三十秒間。


(面倒だからこのままでいっか~)


「分かりやした。翠様。気を引き締めます。なるべく」

「うむ。分かればいい」

「なので、あの~。手首を離してもらえやせんか?」

「だめだ。貴様を一人にしてはならぬと身を以て知ったゆえ、断じて離さぬ」

「え~~~」


 翠は町に降り立った時からずっと、己の手首を掴む野良の手を少しだけ恨めし気に見つめたのであった。











(2024.12.5)



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