12/4 彩り麩
『
「ああ。よかった。よかった。待っていてくださって、本当によかったです」
「………」
瓦の屋根と漆喰の壁と木の床の商団の店の前で、腕を組んでは仁王立ちしていた
「翠様。翠様。角が二本、出ちまってますよ。引っ込めないと。みんな、腰を抜かしちまいますよ。ああほら。口からは牙が二本も出ちまって。人化も維持できないほどお疲れなのですね。一旦、お空に帰りやしょうか?」
「貴様」
「はい」
こてん。
常人では竦み上がりそうな眼光を向けられた翠は、けれど首を可愛らしく傾げた。
「今日は何日だ?」
「十二月四日ですね」
「我らが街に降り立ち、商団に付いてくるように貴様に言ったのは何日だ?」
「十二月三日ですね」
「ほぼ丸一日、我は貴様をここで待ち侘びていたわけだが。貴様は何をしていたのだ?」
「善哉を食べまして、商団の場所を歩く人たちに尋ねやして、尋ねやして、尋ねやしまくったのですが。ええ。俺は興味のない事にはとんと物忘れが激しくって。はい。尋ねては忘れて。尋ねては忘れて。誰か連れてってくんないですかって、涙目で訴えたんですけどねえ。この忙しいのに誰が連れて行くかって、手を払われちまいまして。昼だったのがもう夜になって。寝ないといけないでしょう?寝て、起きて、尋ねて、ようよう辿り着いたんですよ~。あ。これ。どうぞ」
「詫びの品のつもりか?」
怒りは持続したままだが、確かに怯えさせてはいけないと角と牙を引っ込めた野良。翠から手渡された茶色の紙袋を手に取った。
「彩り麩だそうです。花の形とか、毬の形とか、松の形とか。色々入っているでしょう?俺は愛らしい形も好きだし、もにゅもにゅした感触も好きでしてねえ。これ。クリスマスパーティーの土産になりませんかい?」
「………わざわざ買ったのか?」
「善哉屋で籤がやってましてね。引いたら、それが当たりやした。流石は俺ですよねえ。いやいや。流石は野良様。野良様のおかげで俺の好きな彩り麩が当たりやした。ありがとうございます」
「………これは受け取っておく。だが、クリスマスパーティーの土産にはせん」
深々と頭を下げる翠の手首を握った野良は、彩り麩が入った紙袋を懐にしまってはキビキビと歩き出した。
「土産にする物だ。きちんと店で買う。彩り麩が好きなのだろう。店に案内せよ」
「へい」
(2024.12.4)
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