12/3 善哉




 『和干菓子わひがし国』。


 藁の屋根と木の床壁の家。

 瓦の屋根と漆喰の壁と木の床の家。

 黒っぽい樹皮の黒松、赤っぽい樹皮の赤松。

 彩り豊かで、大小様々な幟。

 多種多様な着物を身に着けており、己に誇りを持つ人間。

 四季折々の行事、動植物、食べ物。

 これらが数多く存在しているこの国は、大喧嘩中喧嘩小喧嘩はあれど、守護の役目を担う十二支の動物たちのおかげで平和な時を過ごしていた。




「らっしゃいませらっしゃいませらっしゃいませ」

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

「そこな道を歩く男優さん、女優さん、安くしておくよ」


 門松、しめ飾り、鏡餅、お重、箸、箸置き、椀、小皿、お猪口、徳利、酒、黒豆、数の子、田作り、たたきごぼう、かまぼこ、伊達巻、栗きんとん、昆布巻き、錦卵、鯛、鰤、海老、蛤、紅白なます、酢蓮根、菊花かぶ、筑前煮、手綱こんにゃく、くわい、里芋、たけのこなどなど。

 年末月という事で、正月一色に染まっていたこの国では、常にも増して騒々しい、もとい賑やかな声が忙しなく行き交っていた。


「けしからん」


 町に降り立った時には、人化する野良のら。長い漆黒の髪の毛を頭上で一括りにしては垂らし、目つきが鋭く凛とした佇まいの女性と化しては、常に自戒の心を忘れぬよう真紅の着物の襟を正し、迫力のある険しい顔をあちらこちらと、けれど急かすでもなく時間をかけて動かしていた。


「けしからん。大掃除に使う箒、はたき、雑巾を売っている店が少なすぎる」

「大丈夫ですって。みんなもう買っちまってるんですよ~」


 松の葉のような緑色、眠たげな目つき、猫背、寒い時期にもかかわらず、灰色の着物の胸元を少しはだけてさせている男性と化したすいは、野良の横に並んでゆったりと歩いていた。


「買い忘れている者も居るかもしれないだろう。我は商団に話を付けに行く。翠。遅れるなよ」

「え~~~。ゆっくり楽しみましょうよ~~~。ってもう、豆粒になっちまって」


 人混みを縫うように足早に、背筋を伸ばしたまま颯爽と歩いて行く野良を見送っていた翠。よし、商団の場所が分からなくなって迷子になってしまったと言おうと決めて、善哉の幟が立つ店へと、のんびりゆったりと向かったのであった。











(2024.12.3)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る