12/2 フルプレートアーマー




 『洋仁紫ようにし国』にて。


 時に鮮烈に、時に柔淡に。

 クリスマス一色に染まったこの国では、リボンの赤とモミの木の緑を彩るように、たくさんの色の光が優しくも煌びやかに弾むように放たれていた。


「あああああああああ」

吟華ぎんか殿。落ち着いて下さい」


 十二月に入ってから、赤に塗色したフルプレートアーマーで自身も主もこの国の生物も守る騎士のれいは、主でありこの国の守護竜である吟華に言った。


「落ち着きたいけどさあ。落ち着きたいけど」


 うろうろうろうろうろうろうろうろ。

 銀色の髪の毛、水色の瞳、幼い顔立ちの青年に人化していた銀華は、自室の壁に沿うように歩き続けていた。


「招待状に書いたけど、大丈夫かな?野良のらさん。生真面目だから。気軽に手軽に気楽にどうぞって書いていても、クリスマスパーティーに持って来る物を一生懸命考えて、あちこち足を運んで準備するかもしれないよ。どうしよう。野良さんの慰労会も兼ねているのに」

「『和干菓子わひがし国』では、十二人の守護動物が居らっしゃって、一年毎に守護の役目を担う交代制で行っていて、今年は龍である野良殿が守護のお役目を担っていらっしゃったのですよね」

「そうだよ。二十七日からはもう目が回るほど忙しいっていうから、二十五日のクリスマスにいっぱいいっぱい、お疲れ様、ありがとうって、労いたかったのに」

「身一つでどうぞと書いたらよろしかったのではないですか?」

「う~ん。書いても色々考えて、あちこち歩き回って、準備しそう」

「だめですよ」

「え?何も言っていないけど」

「いいえ。様子を見に行きたいとその小さなお顔にありありと書かれています」

「………だめ?」

「可愛らしい顔をしてもだめです」

「っちぇ」

「僕たちの国では『和干菓子国』と同様に、守護の役目は交代制ですが、期間が違います。三年毎です。吟華殿はまだ役目を担っている最中なのですよ。自国を離れるなんてとんでもない事です」

「野良さんは役目を担っていても自国を離れられるのになー」

「国が違えば文化も違います。『和干菓子国』では離れられて、『洋仁紫国』では離れられません」

「………そんなに怖い目で見ないでよ」

「怖い目をしていると決めつけないで下さい。フルプレートアーマーで全身が隠されているので、見えていないでしょう?」

「じゃあ、どんな目をしているの?」

「仕事をしてくれたら言います」

「………はい」


 自室から隣室の執務室へと向かう吟華に、キビキビとした足取りで付いていく伶であった。


(まったく。野良殿の事ばかりで、仕事にならないのは考え物ですね。微笑ましいと言えば、微笑ましいのですが)










(2024.12.2)



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