12/7 松酒




和干菓子わひがし国』にて。




 赤松の新芽(雌花や雄花がついていない新芽)を採取し、白砂糖を水に溶かし一升瓶の中で発酵させて原液が完成する松酒は、滋養強壮、体力の回復剤など薬剤酒としての効果もある。




「あれほどしこたま飲んだのだ。貴様の怠惰も多少なりとも治っている事であろう」


 ずっっっしりと。

 薄っぺらい外見とは裏腹に、骨も肉も密度が濃厚な肉体を持つすいを背負って町中を歩く野良のらの額には、埋め尽くさんばかりに血管が浮き出ていた。


「何が、『では、松を使った土産を中心にまずは探してみましょうか。あ。あんなところに松酒店が。原液でも、水割りでも、お湯割りでも、炭酸割りでも口当たりも味も最高の松酒がありやすぜ。さあ、飲み比べて、最高の松酒を土産にしましょうや』だ。一樽いっそんほど飲んだぐらいで千鳥足になりおって」

「す………すいやせん。うう。野良様。もう少し。ゆっくり歩いてくだせえ。頭が。世界が。回っておりやす。ぐるぐるぐるぐるぐ~るぐる」

「翠。貴様、本当は己の足で確りと歩けるのではないか?」

「いえ~~~。無理ですぅ」

「情けない。己の限界も見極められぬとは」

「すいやせん~~~。ついつい。楽しくなっちまって。はは。野良様。お酒、強いんすねえ。顔も赤くなってやせんし、足取りも確りしていやすし」

「酔った事など生まれてこの方一度もない」

「え~~~。それはそれは。とんでもない酒豪っすねえ。いいなあ」

「羨ましがる事か。生まれ持った性質もある。多少は耐性がつくやもしれぬが、飲みまくれば酒に強くなると勘違いするでないぞ」

「へ~~~い」

「致し方ない。今日はもう「翠様!」「ん?」


 ぴょんぴょんぴょんぴょん。

 飛び跳ねる度に、一つに括っている前髪が大きく揺れ動き、可愛らしい赤松の絵が描かれた黄色の着物を身に着けた少女が駆け走って来たかと思えば、野良に背負われている翠の足を掴んで、お願いだよと声を潜めて頼んだ。


「早く地下の世界に来て。大変な事になっているんだよ」











(2024.12.7)



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