第2話:虹の国
「それは、はるかはるかの昔の話。今いる人がだれも生きていなくて、書物にも残っていないような遠い昔の話。今ある国がどこも無かった頃の話だ」
わあ、楽しそうな話になってきたって思った。
師匠に語り部の才があるなんて知らなかった。
これまで師匠が、そんなお話をしてくれたことなんて無かったから。
毎日、生活に必要なことと、僕を鍛えることしかしてくれなかったし。
「そのころは、この国は虹の国って呼ばれてた。わかりやすいだろう。七色の虹の光が国中を照らしていて、とても豊かな国だったらしい」
へえ、そのときは、幸せな国だったんだね。やっぱり虹がきれいだったから? 見ているみんなが優しい気持ちになったとか、そういうの? そんなことを矢継ぎ早に聞いた。
いや違う、と師匠は言った。
「もっとわかりやすいものさ。虹の光には不思議な力があって、色ごとに違う光の力でこの国を守っていたんだ」
色ごとに違うの? どんな力があったの? 食いつくように聞いた。
このころには、だいぶ話に引き込まれてたと思う。
「例えば赤は炎の力、熱を自在に操り、大地にあたたかさを与える力さ」
へえ、どんなことができたの? 目を輝かせて僕は聞いた。
「それは、お前、冬も暖かく暮らせるんだぞ、寒さ知らずだ。最高だろ」
たしかに、なんてすてきな力だろう。
毎年寒くて、冬は生きてくだけでも大変だから。
隙間風に困ることもなく、着るものに泣くこともない。
「緑の色は豊饒の力、植物の力を操り、作物は絶えることなく、人は飢えることが無かった」
それもすてきな力だ。食べるものを気にしなくてすむなんて、なんて最高だろう。
僕らときたら、その日の夕飯の材料を買うだけでも乏しいくらいだったというのに。
じゃあ、青は? 次の色の説明をせがむ。
「青はすべての水を操る力、水の流れや量や性質を望むがままにし、治水にも飲み水にも困らない」
ああ、それもいいな。川の氾濫で村が無くなったり、汚い水を飲まなくて済むんだ。
じゃあ次の色は……、といいかけたら。
「待て待て、全部の色を聞いてたらきりが無いだろう」と止められてしまった。
え? でもせっかくだから全部聞きたいよ。
「あたしが話したいのはそこじゃない。虹はそんな不思議な力を持っていたのに、なぜ今はこうなってしまったかって話さ」
ああ、そうだったのか、と僕は思い、じゃあ、といったん口を閉じた。
次の展開を楽しみにしていた自分がそこにいたから。
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