いつかの日、色があった虹の話を

季都英司

第1話:色のあった虹の昔話

 ――昔話をしようか。


 そう言って、突然あの人は僕に語り始めたんだ。

 あの人は、捨て子の僕を拾ってくれた人で、僕を育ててくれて鍛えてくれた人。

 親代わりで師匠。そんな存在だった。

 僕がまだ幼かった頃の話だ。

 寝る前のおとぎ話のつもりだったのか。

 とてもとても不思議な話だった。

 最初に聞いたとき、そんなことあるわけないって、僕は笑ったんだ。

 だって、あの人はこんなことを言ったんだ。

「はるか昔、虹には色があったんだ」なんてさ。

 信じられるわけがないさ。

 そりゃあ、虹のことは誰でも知ってる。

 この国に住んでる人で、あの虹のことを知らない人はいない。


 この国のど真ん中にあって、

 天空高くそびえる巨大なアーチで、

 神様がまだいた時代にできたって言われていて、

 そして、ただつまらない、さわれもしない無色の幻影。


 虹のことは誰もが知っているけど、誰も見向きもしない。

 だって、灰色の縞模様が描かれただけの、とても地味な無色で巨大な、ただ邪魔な物。

 これが無ければ、もっと開拓ができるのにってみんな言っていた。

 この国はとても貧しかったから、こんな大きいだけの物を置いている土地なんて本当は無いんだ。

 さわれないなら、どう扱っても良さそうなものだけど、触れるとひどい呪いをかけられるから、だれもさわったりなんかしない。そういう腫れ物扱い。

 国のどこからでも見えて、その地味な見た目になんとなく暗い気持ちを思い出させる。

 それが僕らにとっての虹だった。

 

 それなのにあの人は言うんだ。

 虹って言うのはとってもきれいな物だったって。

 今はただの灰色の陰気な縞模様だけど、昔は七色に輝いていて、外側から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。そんな夢あふれる色に別れてたんだって。

 その話を聞いて、僕はすぐに思った。

 ああ、あの人は作り話で僕を楽しませようとしてくれてるんだなって。

 たしかに、そんなものがこの世に存在したなら、それはそれは美しくて夢があって、この国の毎日を楽しくしてくれて、そして希望を与えてくれるだろうなって。

 その想像がとっても楽しかったもんだから、僕はその話に乗ってみることにした。

 へえ、すごいねって、その頃のお話を聞かせてよって。

 あの人は、その言葉に気を良くしたのか一つ頷いて、じゃあお前には全てを話してやる、なんてかしこまって話を始めたんだ。

 

 記憶のふたが開き、あのときの僕が戻ってくる。

 そう、たしかあの人は、こんな出だしで語り始めたんだ。

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