第18話 装備購入②

 

 

 最後は魔法具店だ。通りを移り、少し離れた店舗まで歩く。

 

 ダルア村に来た冒険者の魔法使いは、木の杖を武器に使っていた。これは杖を振り回して敵を殴っていたわけではなく、魔法を発動するために使用していたということだ。

 

 彼は杖を使って初めて実戦レベルの魔法が使えると話していた。自分で魔法を覚えてみるとそんなことはなかったので、若い人だったし単純にその人が未熟だったのだろうと解釈したのだが。

 

 後に杖は魔法発動体の一種だと知った。これにより魔法の効果を増幅し、操作能力も向上するという。そして魔法発動体にはいくつかの形があり、杖より効率が悪くなるものの、指輪型や腕輪型など様々な形が存在するようなのだ。

 

 そこで私は剣を使うので杖は装備できないが、腕輪型なら装備できるのではと考えた。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

「腕輪型の魔法発動体が欲しい」

 

「これまでどんなものを使用されていましたか?」

 

「今回が初めて」

 

「それでは簡単にご説明します。魔法発動体はそれほど材質に種類がなく、魔木か魔力の通りやすい金属かという選択になります。その中で当店で取り扱っているのはトレント材と銀、ミスリルになります。この順番で金額が高くなり、おおむね機能も向上します。初めての場合はトレントを選択される方が多いですね」


「また部位については杖や腕輪、首輪、耳飾り等多数存在します。単純な比例関係ではありませんが、そのサイズが大きい方が性能も良くなると思ってもらえればよろしいかと」

 

 説明を受けながら視界の端で店内を見回す。武器屋や防具屋は多くの商品が店内に並び、実際に手に取って確かめられるようになっていた。

 

 ただここは、少額の品や形のみのサンプル品は触れられるように置いてあるものの、その他は触れられないように囲われていたり、カウンターの裏で管理されているようだった。

 

「試してみることはできる?」

 

「いえ、ご購入前の使用は遠慮いただいております。魔法発動体は魔法の使用により発動者との結びつきが強くなっていき、効率が上がっていきます。そうなると逆に他の人間には使いにくくなってしまうのです」

 

 なるほど。どういう技術で成り立っているのかとても興味をひかれる品だ。王都の図書館で何かわかったりしないだろうか。将来解析用にしてもいいし、今回はトレント製のものにしよう。

 

「ではトレント製のものでお願い」

 

「それではまず、お客様の腕周りを測らせていただきます」

 

 その後、サイズの合うものを選んでもらい、八百リンで購入した。

 

 銀より安い素材のはずなのに結構高い。杖型の値段を確認すると腕輪型より少し高い位とのこと。これは素材云々というより、技術料が高いんだろうな。

 

 無事に用事が済んで店の外に出る。気になっていたのですぐに軽く魔力を込め、購入した魔法発動体の具合を確かめてみた。

 

 ……お、おぉ。確かに体内での魔力操作にはあまり影響しないが、体外への干渉力が少し上がっている。空中で魔力を集めたり拡散させたり、力場を作ったりいろいろ試してみる。

 

 魔力を操作しやすくなっている。出力も向上しているだろうし、これはいい買い物だった。生活の多くの場面で魔法を使用している私には、とても便利な道具だ。

 

 

 後は少し時間をおいてから防具を取りに行くだけだ。まだ昼過ぎだし、その後は街の外に出て慣らしていこう。特に剣はこれまでの木剣に比べ倍近い重さになっている。

 

 日々自身の身体能力の向上から動きに誤差が生じ、想定と実際の動きが一致するまで訓練を重ねている。今日は特に時間をかけてチェックする必要がある。

 

 

◆◆◆

 

 

 装備も整ったことだし、その翌日にはさっそく遠出をすることに決めた。

 

 旅に出て早々に動きを制限されてしまい、少し窮屈に感じていたのだ。Gランクに上がったことでサザン領内での通行税が免除され、気軽に他の村に入ることが可能になったので、いろんな場所を見て回りたかった。

 

 それに実戦で本格的に体を動かして装備にも慣れたかったことだしね。そしてせっかくの遠出なので、効率よくクエストを受けられるようにしたい。

 

 サザン周辺は強い魔物が少ない。正確には少ないながらもちゃんと存在しているが、人の目の触れる場所に出てくることは多くないのだ。納品依頼ならともかく、奥地の魔物までお金を出して倒してほしいなんて奇特な人はいない。

 

 つまり高ランクになればなるほど討伐依頼が少なくなる。

 

 そしてどんな場所でも需要のある警備や護衛のクエストは、ほとんどがFランク以上のクエストだ。たまに出されるGランクのクエストはすぐになくなってしまう。そうなると、遠出していかないといつも似たようなクエストを受けることになる。

 

 Gランクの私の場合、日帰りで効率よくクエストをこなそうとすると、シカを探して回るシカ狩りまみれになるだろう。せっかくHランクでは受けられなかった、魔物の討伐を受けられるようになるランクなんだけどね。

 

 

 日々街の人々を観察していて、この街の冒険者はあまり強い人が多くないなと思うようになってきていたのだが、このあたりが原因なのではないかと思う。

 

 私が見かけた中で最も冒険者ランクの高かった人がEランクだ。それより上の人たちは仕事を求めて遠征したり、他の地域へ行ってしまうのかもしれない。

 

 また当初想定していたより低ランクの冒険者が強くないということもあった。

 

 聞いた話によるとジョブランク一の頃に一レベルアップにかかる時間は大体半年から二年程度。故に一レベルアップを一年以内に果たせれば、才能があるといわれる。そしてレベルもジョブランクも上がれば上がる程、レベルアップには時間がかかるようになっていくそうだ。

 

 私とはあまりに違い過ぎて感覚として全く理解できないが、どうやらそういうことらしい。

 

 そうなると、だ。ギルド登録の時に考察した、超級・上級・中級・下級・新人冒険者という分類がジョブランクに対応しているのではとした私の考えは、少なくとも低ランクに関しては完全に誤りだったということ。

 

 新人冒険者というのはHランクを指し、ジョブランク一のレベル上限はレベル十。真面目に働いているのなら、いくら何でもHランク脱出に十年かかる何てことはない。もしそうなら冒険者の多くがHランクなんて、ランク制度の意味がなくなる笑える事態になってしまう。

 

 故に、ジョブランク一で下級冒険者やジョブランク二で中級冒険者は当たり前に存在する。

 

 レベルが上がらないということは、私のように年齢のせいで力が大きくその水準から劣るような特殊な例を除くと、その人の技もそのレベルだということになる。それにしても技量が低いなと感じるのだが……。

 

 

 さて、意識を目の前にある冒険者ギルドのクエストボードに戻す。新しい場所へ行ける依頼、同じ方向で片付く依頼、そうなると……。よし四泊五日の旅に出よう。

 

 馬車の定期便が通っていない村への配達依頼があること。そしてその村の近辺で採取依頼の出ているポーションの材料となる薬草が取れる場所があること。それらを複数回ることができるサザンから南西方面に向かうことに決めた。

 

 これらのクエストに狩った動物の納品や常設依頼も組み合わせれば、一度に大量のクエスト消化が見込める。

 

 サザンへ戻るときには、フォートンからサザンへの道で通過したフォルン山脈に再び入ることになるだろう。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 冒険者になって装備も整えたし、いよいよクエストのために外へ行くぞと、ようやくファンタジー小説感が出てきました。ここまで来るのに結構な文字数を使ってますね。

 

 

 

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