第28話 後片付け②

 

 

 オークの運搬作業はこのまま進めてもらい、私たちは次の問題に取り掛かる。

 

 この場に残って作業している村人たちの護衛役としてGランクパーティーの生き残りである計四人を残し、【森の守り手】の三人と私でゴブリンの集落へと赴いた。

 

 【森の守り手】はパーティーリーダーであり剣士であるハルトを失っているため、私が魔法剣士として前衛に入り、リーダーはエルミーユが引き継いでいる。

 

 

「まず、生き残りがいないか捜索する。建物の破壊は最後だ」

 

「何かの気配がする。多くはないが、敵が残っているようだ」

 

 集落の入り口まで来たところで、エルミーユと斥候の男が話している。集落と言っても粗末なものだ。丸太や枝、葉と蔦を使って原始的な建築物が構築されている。

 

 建物の外に出ている個体はそのまま倒せばよい。そして建物の中にいる個体も、私たちが建物に近づくと匂いで気づいて飛び出してくるため、即座にマジックボルトで打ち抜くだけの簡単な作業だ。その存在に気づいていなければ不意打ちを恐れなければならないんだろうけど、最初から全て居場所が分かっているからね。

 

 集落の奥まで歩いていくと、建物で隠れて正面からは見えなかった、集落が背にしていた崖のふもとが見えてきた。

 

「洞窟があるな」

 

「オークの臭いがする。ゴブリンの集落の奥にオークの巣があるとは……」

 

 集落に近づいた時点で気づいていたが、やはり表からは視界が通らないような場所に洞窟があった。崖のふもとを入り口としたかなり大きな洞窟で、内部は広くなっている。身長三メトル弱もあるオークジェネラルが住んでいただろう場所だからね。

 

 この場所なら事前の偵察の時、洞窟自体に気づかなかったとしても、ゴブリン以外の気配を察知して欲しかったな。あれだけの数が全て洞窟の中に引っ込んでいたわけではないだろうし、周辺にもうろついていたのではないかと思う。

 

 ……まぁ、今更だな。団体行動をするなら、全ての仕事を自分ですることは出来ないのだし、運が悪かったと思うほかない。これからオークの住処を探して回る手間が省けたと考えよう。

 

 そのまま洞窟内部を捜索したところ、ここにも数匹のオークが残っていた。未熟な個体もいたが、確実に息の根を止める。

 

 

「しまったな、これも村に運搬してもらわなくてはいけない」

 

「一度野営地まで戻って、人を呼んでくるか?」

 

「集落の建材でソリを作ろうか? それなら、私たちであの場所まで運べる」

 

「そんなこともできるのか。器用だな。どれくらいの時間がかかる?」

 

「数日使うだけのものなら、四半刻もかからない」

 

 洞窟内を制圧した後オークの死体をどうするかという問題が発生したものの、余計な往復をしたくないため、荷運び用のソリの作成を提案した。その後周囲を含め念入りに生き残りがいないか捜索し、後処理に入る。

 

 倒した敵から討伐証明部位を剥ぎ取り、ゴブリンからは魔石を取った。ソリを作ってオークを持ち帰るために外まで運び出し、まずオークの巣であった洞窟をエルミーユの土魔法で埋めた。そしてゴブリンの集落にあった全ての建物を、集めたゴブリンの死体と共に私の魔法で燃やして灰にする。

 

 貯めていた武具などはほとんど襲撃時に持ち出していたのだろう。碌なものがなかったな。

 

 

◆◆◆

 

 

 そうして初めての緊急依頼が終わった。これだけの規模のクエストになると、魔物を倒すことより後処理の方が大変だった印象だ。

 

 オークを運搬してもらうからといって、任せて先に帰るわけにはいかない。剥ぎ取り作業やスフレ村との往復を護衛しながら作業を手伝うことになり、時間がかかった。オークをスフレ村からサザンへ輸送しなければならないため、便乗して馬車で帰れた点はよかったのだけれど。

 

 今回のクエストはゴブリン退治ということで、当初報酬には期待が持てなかった。しかし思わぬ副産物として馬車数台分にもなる上位種を含む大量のオークが手に入り、合わせて達成された多くの納品依頼の報酬や素材の代金で、総額は経費を差し引いても私が今まで見たことのないようなものとなっている。

 

 報酬については事前にパーティー毎の貢献度により分配すると決めていた。貢献度は皆で話し合い、最終的にリーダーが決定する。今回の場合はリーダーだったハルトが亡くなったため、エルミーユが引き継いで担当した。

 

 元々【森の守り手】がEランクで残りがGランクと突出していたため、自然と報酬に差がつくよう、このように決めていたのだろう。実力が違う上に彼らはリーダーという責任を負うのだし、パーティーでの等分割りや人数割りでは逆に不公平だ。

 

 だが結果的に一番貢献したのは私だ。それも圧倒的に。

 

 特に話し合いが長引くこともなく、淡々とどのようなことがあったか事実を列挙して、確認していった。そしてエルミーユは公平に評価してくれ、私が報酬の五割、【森の守り手】が三割、【ネイルズ狩猟団しゅりょうだん】と【サザンの紅】が一割ずつと決まった。

 

 魔物の討伐だけを見ればもっと貢献したはずだが、指示を受けるだけの立場だったことを考慮に入れれば、差し引いてこんなものだろう。

 

 ちなみに全滅してしまった【グスティの四芒星しぼうせい】の装備を引き取りたいという人はいなかったため売却され、お金になって同様に分配された。

 

 私は【森の守り手】を四割にして、残りのパーティーが五分ずつでもいいように思ったが、口は出さない。

 

 【森の守り手】はまだ気丈に振舞っていたが、Gランクパーティーは自分たちのパーティーから死者を出してしまったことで意気消沈しており、彼らが口を挟むこともなかった。

 

 

 それにしても、魔物のランクが上がると途端に素材の売却代金が跳ね上がる。この前ヴェノムスパイダーを売ったことあり、所持金が二十万リンを超えた。

 

 金貨から上の硬貨の並びは、金貨、白金貨はっきんか、聖銀貨、魔鉄貨、虹金貨こうきんか緋金貨ひきんかとなっている。金貨だと大量にじゃらつかせることになってしまうため、報酬は聖銀貨と白金貨を混ぜて貰った。

 

 聖銀貨か……。聖銀とは、ミスリルのことだ。多くの冒険者が憧れるミスリル装備の素材。

 

 虹金と略されるオリハルコン、緋金と略されるヒヒイロカネ等、硬貨にもなっているようにミスリル以上の素材も世界には存在する。しかしそれらは著しく流通が制限されており、現在ではそういった硬貨も新規の発行はされていないと聞いたことがある。そのような物を手に入れるには余程の運か実力が必要だ。

 

 よって現実的な金属装備としては、ミスリルは最高位の一つと言ってもいいだろう。魔鉄と略されるアダマンタイトもその一つではあるが、ミスリルとは好みによってどちらが良いか分かれるところだ。

 

 実際には手に取って試してみないと分からないものの、聞こえてくる話だと、ミスリルの方が私と相性が良さそうだと感じている。それにダルア村に居たころからその名を聞いたことがあって、幼少期からの憧れもある。やっぱり、私はミスリルがいいな。いつか手にしてみたいものだ。

 

 今回Cランクの敵がいる大規模な群れと戦ったが、その結果得られたミスリルはたった硬貨一枚分。聖銀貨は合金だろうからそう単純な話ではないが、これをたくさん積み上げないと剣を作れない。ミスリル装備はCランク以上のクエストを何十と受け続けて、初めて手に入る位の価値なのではと想像した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 特に意図していたわけではないのですが、読み返していて気づきました。

 

 >この国ではが討伐されることはないため富裕層へ売却され、

 

 はい、別にただそれだけです(´艸`*)

 

 

 

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