第27話 後片付け①
これで最後。相対したハイオークの心臓に剣を差し込んで即座に引き抜き、血を噴き出した魔物から反撃を警戒して距離を取った。少ししてうつ伏せにどうと倒れるその姿を見守り、構えを解く。
生き残っている敵がいないことを再度確認し、ふぅと一度鋭く息を吐き、呼吸を整える。
オークは大きすぎる。最も一撃で仕留めやすい首に剣を届かせるためには跳びあがる必要がある。しかし乱戦で無防備に空中に出ることは大きな隙と言える。
初めに足を斬って体勢を崩させ地面からでも届くようにするか、魔法を待機させるなりして隙をつぶしてから跳びあがって攻撃するか。どちらにしろ複数手を求められる分、剣で相手をするのは時間がかかってしまうな。
むせかえるような血の臭いを煩わしく感じながら周りを見渡すと、大量の魔物の死体と、うなだれていたりこと切れてしまった冒険者たちが目に入った。
幸い後衛は重傷を負わなかったようで、治癒師二人が治療を始めているようだ。ポーションも用意したと聞いているし、今動ける者は助かるだろう。前衛は敵の壁を破って包囲網を脱出するという目的には失敗したが、後衛を守るという最低限の仕事は果たしたようだ。
それにしても、これからが大変だな。百数十体の魔物から討伐証明部位の剥ぎ取りと、オークの運搬、死体の処理。あと、亡くなってしまった冒険者はどのように扱うのだろうか。
その後はゴブリンの集落に行って、また別の群れが住みつかないように建物を破壊しなければならない。そしてオークがどこから現れたかの調査と、住処の破壊か。
ひとまず次の動きが決まるまで小休止だね。ハルトの姿は見ていないが【森の守り手】のメンバーはいたので、誰かが方針を決めてくれるだろう。
剣を収めて、散々血を被った頭やクロークを洗い、水を抜いて乾かす。こういう時こそスキル【クリーン】を使いたいが、今の私は魔法使い。水魔法で対処する。
腰を下ろして人心地つく。今回は制限内の戦闘であり、範囲魔法で薙ぎ払ったり、魔力や氣力でごり押したりしなかったが、強敵相手になかなかうまく戦えたと思う。
私がいなかったら合同パーティーは間違いなく文字通り全滅していたはずだ。私が魔物の七割は倒したから。
今回現れたのはゴブリンがGランク~Eランク、オークがFランク~Cランク。合計で百六十匹ほどだ。ゴブリンの上の方や、オークキングは現れなかった。集落の規模がそこまで育っていなかったのだろう。
これらの格上を、ましてや十倍の数に包囲された状態からEとGランクの冒険者で対処するのは、どう考えて不可能だ。せめてもっと数を集める必要があった。よくそんなに生き残ったなと驚かれるレベルだろう。
合同パーティーメンバーの戦いを把握できていたわけではないけれど、私を除くとエルミーユの魔法が力を発揮していたように見えた。その腕が良かったというのもあるし、集団戦だとやはり魔法は輝くのだろう。
私個人だと、敵を追尾し続けるアクアジャベリンの維持と、近接戦闘の並行作業は自身の制御能力を圧迫しており、戦闘中は少し大変だった。あれなら本来は、短時間の発動で済む大火力を出した方が楽なんだろうな。開放感からか、魔力が体の中に満ち満ちているような感覚がある。
今回のクエストについて振り返ると、根本から間違えていてこれを土台にして考えるのも難しい。しかし、結果からの振り返りと、自分なら限られた情報でどのような判断をするのかは常に考えなくてはいけない。いつか私もぎりぎりの状況に身を投じることになるかもしれないから。
自身の頭の中で振り返りを行っていると、エルミーユがやって来た。
「アリシア、いいかい」
「ん」
「今回は本当に助かった。君がいなければ間違いなく全滅していた」
「そう思う」
「しかし参加メンバーの半分が死んでしまった。私たちもハルトがやられた」
なるほど。犠牲を出しても壁を突破しようとしていた前衛陣が、戦闘終盤には後退しながら守りに入っていたように見えた。おそらくそのあたりでハルトが指揮をとれなくなっており、リーダーを変更した結果、方針を転換することになったのだろう。
「そう……亡くなった人はどうするの?」
「遺体は火葬してこの場で埋める。遺品は決まり事を特に決めていない場合は、パーティーで分割して引き取る。パーティーがいない場合は今回だと合同パーティーで分ける。後は冒険者ギルドに身分証を届けることになる」
「分かった」
「これから夜明けまで休み、遺体の埋葬を行う。剥ぎ取りと運搬は手が足りないから、スフレ村に手を貸してもらえるよう人を出す。ゴブリンやオークの集落への対処はその後になるだろう」
集落を強襲する予定が逆に奇襲攻撃を受け、結果として【森の守り手】に一人、【グスティの
◆◆◆
あれから二日、村人たちによるオークの運搬が続いている。オーク肉はとてもおいしいらしく、オーク革は様々なものに利用される。つまりオークはお金になる魔物なのだ。
この国ではオークが討伐されることは多くないためその肉は富裕層へ売却され、村人たちの口にオーク肉が届く機会は本来なかったはずだが、解体と運搬への見返りとして数匹分渡すそうだ。
また犠牲を出しながらも、当初予定になかったゴブリンを超える脅威もまとめて対処してくれた冒険者への感謝もあるのかもしれない。村人たちは積極的に協力してくれている。
幸い魔物素材は動物素材に比べて長持ちする傾向にある。例えば普通の肉なら早ければ一日で悪くなってしまうが、魔力が多く含まれる魔物肉は保存期間がその魔力量に比例するようだ。オークでも数十日は持つと聞いた。サザンで売却する分には十分な時間だ。
売却と運搬に関しては、スフレ村からサザンへ使いを出してもらって、協力してサザンの冒険者ギルドへ馬車で運んでもらえる手筈になっている。スフレ村にある馬車だけだと足りないだろうし、その分はサザンから回してもらうのだろう。私たちがサザンに戻る頃には精算が終わっているはずだ。
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