第26話 急襲②

 

 

「敵襲。囲まれている」

 

 私の声に皆が慌てて起き出した。動き出したメンバーが武器を抜いて盾を装備し、反応の鈍い数名が何が何だか分からないという顔をしている中、敵の攻撃が開始される。そうして見張りのために一番外側にいた【グスティの四芒星しぼうせい】の一人が、あっけなく頭部を矢で貫かれた。

 

 彼らは頑丈な金属鎧を揃えていて、兜も装備していたはずだった。これは私も見落としていたのだが、何故か肝心な時に彼は兜を外していたようだ。

 

 こんな時のために本人も重くてつらい思いをして、静かな森では目立つ金属音で無用な敵を引き付けて周りに迷惑をかけていたのではないのだろうか。

 

 見張り中に装備を外すというのは、盲点だったな。私とは違う世界に生きている人たちをきちんと認識しないといけない。

 

 矢に貫かれた男はその勢いに押されて、地面に倒れる。

 

「照明、上げる?」

 

「頼む!」

 

 ファイアボールをゴブリンたちの壁が最も厚い場所の上空に待機させる。

 

 前衛陣は武具を構えて隊列を作り、後衛を守る。どう考えても抵抗が激しくなるだろうゴブリンの集落側には背を向けて、スフレ村の方面を向いた。とは言っても、前後左右を囲まれているんだよね。一時撤退を考えているのかもしれないな。

 

「遠距離組は弓持ちから狙え!」

 

「囲まれている。前衛は前進して壁を突き抜けるぞ。後衛は距離を取って続け」

 

「エルミーユ、風壁を頼む!」

 

 同じパーティーの斥候から状況を聞いたのか、ハルトが矢継ぎ早に指示を出す。どうやらゴブリンたちはまず一定の距離を保ったまま、遠距離から投石し始めたようで、矢よりもたくさんの石が飛んでくる。

 

「ウインドウォール」

 

 耳飾りに手をかざして魔法名を唱えるエルミーユ。あれが昨夜聞いた、専用魔道具を使った短縮詠唱か。渦巻く風が私たちを囲うように吹き荒び、投石を防ぐ。

 

 私はまず弓持ちからだな。ファイアボルトを連続して射出し、正確に射手を打ち抜いていく。

 

 遠距離攻撃が有効でないと見るや、遠くから群れを成した全方位のゴブリンが走り出し、こちらへ迫ってくる。オークはその後ろをゆっくりと歩いてこちらへ進んでいるようだ。数の多くはゴブリンとはいえ、これだけの質量が駆けて迫ってくる様はなかなか迫力がある。

 

「大地のマナよ、我が意に従い皆を守護する壁を築け。岩土よ、結合せよ! アースウォール!!」

 

 エルミーユが土魔法を使用したようだ。私たちの背後を守るように扇型に横十メトル、高さ三メトルほどの土壁が地面から突き出し形成される。これで襲撃を受ける方向がある程度制限された。素晴らしい魔法だな。

 

 丁度いい足場ができたので、私は土壁の上に飛び乗りファイアボールを雑に数発連続で打ち出す。いくらでも敵がいるのでどこに打っても当たる。燃えるゴブリンが松明替わりになって丁度いいだろう。

 

 それは確かにゴブリンに命中し周囲の数匹を巻き込んだものの、敵が広がっているためこれは効率が悪い。長丁場になりそうなので、ここからは魔法を変えよう。

 

 水流で三本の槍を形成し、アクアジャベリンを射出する。それを操作し軌道を曲げて、別々の弧を描かせながら次々とゴブリンを貫いていく。

 

 他のメンバーを確認すると前衛がゴブリンの壁に突入していくのが見えた。群がられたら持ちそうにない。アクアジャベリンを一つそちらへ向かわせ、敵の数を減らしてやる。

 

 

 寄ってくる敵を倒し続けて、時間が過ぎる。

 

 前衛がゴブリンの壁を抜けるのに手間取っている内に、オークたちがその進路側に集まってしまった。ゴブリンがどれだけ犠牲になろうと、ここで我々を仕留めるつもりのようだ。

 

 このまま事態が推移すると、合同パーティーの半数位は死ぬかもしれないな。

 

 そうして四半刻ほど戦線は膠着したが、ようやく終わりが見えてきた。アクアジャベリンを維持し続けているため、相当数を討伐し、囲っているゴブリンがまばらになってきたのだ。遠くで派手な音がして、地面から突き出た土石の槍がゴブリンを攻撃しているのが見えた。

 

 次の瞬間、私に向かって横から飛んできた風魔法を魔力障壁で受け止める。射線を辿ると敵の姿が見えた。あれは杖持ちのゴブリン、ゴブリンシャーマンか。

 

 操作していたアクアジャベリンで貫き仕留める。

 

 前衛たちは脱出に失敗してしまったようだ。ゴブリンの壁は抜けたが、オークの壁に完全につかまり勢いが止まってしまった。今は逆にじりじりと下がり始めているように見える。

 

 私は標的をオークに変えて、端からどんどん数を削っていく。

 

 まだ時折魔法が見えるからエルミーユは生きているが、他はどうなったか分からないな。オークやその上位種相手に【森の守り手】以外はまるで歯が立たないだろうし、彼らがどこまでフォローできているか次第だ。

 

 前衛が余力を失ったのか、私が少し彼らから離れていることもあって、次々とこちらへ敵が抜けてくるようになった。しかしこれは敵がばらけていることになるため、チャンスでもある。

 

 今足場にしている土壁の高さだと、大型の上位種は私へ手が届いてしまうことも考慮すると……。

 

 私は近接戦闘へ移行することを決め、剣を抜いて壁から飛び降りる。敵を殺し続けるアクアジャベリンを維持したまま、戦場を駆け、足を止めないようにしながら、すれ違いざまに敵を斬って進む。

 

 前衛陣が総崩れになる前に救援に行かなければならない。数匹のオークを足だけ傷つけ行動不能にし、少し硬いハイオークを斬り倒す。そのまま駆けて、合同パーティーの前衛たちに引き寄せられたオークの壁の厚い部分を避け、薄い部分を狙い囲いの外へ突き抜けた。

 

 そこで自身の気配を断ち、前衛たちと対峙している敵の裏を取る。そのまま一切気取られることなく、その中でも特に気配の強い大型のオークへと迫り、不意を打って右足を半ばまで断ち切る。斬り落とすつもりだったが、硬い。もっと強化が必要だったか。

 

 足を奪うところまではいけなかったが踏ん張ることは出来なくなったようで、相手は転倒する。敵が倒れたことでその容貌を認識した。オークジェネラルか。Cランクの魔物じゃないか。正面から戦えば少し面倒だったかもしれない。

 

 足に深手を負い転んだオークジェネラル。それでも仰向けになってこちらへ必死に手にした棍棒を振り回しているが、そっと手元を力場で押してやり、私から軌道をずらす。そして隙だらけになった首元に剣を突き立てた。

 

 これがオークたちのトップだろう。後は残敵掃討だな。

 

 

 

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