第25話 急襲①
昨日はあの後も貴重な話を聞くことができた。この国のこと、魔法のこと、エルミーユが諦めてしまった理由、そして半年後には冒険者を止めて結婚のために家へ戻ること。
考察通りではあったのだが、上の方の冒険者を見かけないなと思ったら、皆この国から出て行ってしまっているのだと分かった。
直接問うことは避けたが、私と同じように有用な天賦スキルと言われるようなものを持つ人が見当たらないのも、同じ理由からだろう。サザンの人口規模なら数人見かけてもいいはずだが、一向に出会わない。
ダルア村にいた頃は洗礼式で天賦スキルの確認もできるだろうし、そういった有用な人材を国が集めているのではと考えていた。つまり王都や各都市の行政区等、私からは現状見えないような場所に偏っている可能性だ。
しかし旅に出てダルア村の空気感が国全体にまで及んでいると知り、その可能性は高くないと思うようになった。そんなことよりもっと先にやることがあるはずだし。そうなると、他国へ移動していると考えた方がしっくりくる。
◆◆◆
すっきりとした晴れた空の元、私達合同パーティー十六人はスフレ村を出発した。
この時思い出したのは幼少期にあった、似たような経験をしたときのこと。今回はダルア村の時とは違って、村人に協力してもらったりしないようだ。あの時は村人にゴブリンの捜索や村での警備を任せていた。
たぶんあの時とは村から敵までの距離や、集落の有無が違うんだろう。拡散した敵を見つけて倒すのと、拠点を攻略するのでは難易度が異なる。自身の身を守れない人が敵中に突入していけば、枷になってしまう。あるいは村人が協力することを条件に依頼料金を抑えていた可能性もある。
そんなことを考えながら、ゴブリンの住む集落を目指して森を進む。
村を荒らしに向かっていたのか、あるいは偵察に向かっていたのか先程二匹のゴブリンが歩いており、幸先よく仕留めることができた。
ただやはりこちらの斥候がゴブリンを発見するより早く、ゴブリンが先にこちらへ気づいていたことが気にかかる。斥候の警戒を促す声が間に合ったからよかったが、遠距離攻撃を持った敵だと間に合わないかもしれない。
これは斥候の反応が鈍すぎるという問題もあるが、それ以上に別の問題を抱えている。
やはり【グスティの
まぁ、彼らを討伐メンバーから外して村の警備をさせるという選択肢もなくはなかったのだ。Eランクのパーティーならそのあたりのリスクは当然織り込み済みで、その上で必要な戦力だと判断しているのだろう。おそらく本人たちには酷なことだろうが。
これまで得られた複数の情報が私に警鐘を鳴らしている。しかし私は自身に危険が及ばない限り、人目に見せると決めている範囲でしか力を出さないし、リーダーたちの判断に口を出す気もない。私は合同パーティーの中で一番経験が浅いGランクの冒険者で、リーダーはEランクの冒険者なのだ。
昼過ぎには何事もなく集落近くに到着した。それからは斥候に集落の偵察に出てもらい、私たちはこれから休む野営地周辺を探索する。
しばらくして【ネイルズ
リーダーのハルトは予定通り夜半に集落を強襲すると決め、それまでこの場で待機することになった。ここは森の中を進みゴブリンの集落の半刻程手前にある開けた場所だ。
夜襲を仕掛けようというのに、このような見つかりやすい場所に留まるのはあまり良いこととは思えないが、何か考えがあるのだろうか。あるいは、発見されることを既に織り込み済みで動いているのだろうか。
私一人ならこのように見通しの良い場所に留まることはしないだろうなと考える。ゴブリンの生態に詳しい訳ではないため、これが確かに誤った采配だと判断はできないが、あえてリスクを取る理由もない。一応用意してきた臭い消しは使用しているものの、これで敵に見つからずに済むのだろうか。何か私には見えていないものがあるのかもしれない。
今日も交代で見張りを立てることになったが、私は前回の野営で見張り番を終えていたため、ゆっくりと休むことにする。
数刻後、遠くで何かが動く気配に目を覚ます。日が沈んで間もない時間で、そろそろ視界が通らなくなる黄昏時だ。
目を閉じたまま感知範囲を広げると、何の気配なのか判明した。ゴブリンが来ている、しかも大群だ。襲撃するつもりが、されてしまったな。休憩時間の最中、それほど近くはなかったものの、何度か森の中を歩くゴブリンは感知していた。どこかでこちらの野営場所がばれていたのかもしれない。
森に紛れて距離を取ったまま私たちのいる開けた場所には近づいてこず、大きく回り込もうとしているようだ。今斥候たちは休んでいて、見張り番は【グスティの四芒星】の二人だ。しかしその二人はうつらうつらと半分寝ているような状態で、まともに警戒していないように見える。
ここまで状況が揃うと、逆に可笑しくなってくる。
見張り番についてもいくらでもやりようはあったのだ。私、【森の守り手】の四人、【ネイルズ狩猟団】の斥候、【サザンの紅】の弓使いであるリリア。これらの合同パーティーの中ではまだましな感知力を持っているメンバーを、危険が予測される時間に配置する位のことはしても良いだろうに。
もしかしてハルトはこちらを陥れるためのスパイか何かなのでは? 彼の指示はことごとく裏目に出ている。
ゴブリンの数は確かに九十匹ほどのようだ。全軍で出てきたのか。む、ゴブリンの奥にさらに大きな反応がある。これは形状からしてオークかな?
オークとは人類と豚の合の子のような見た目の生物で、身長二メトルほどの二足歩行の豚人間だ。人類ではなく魔物に分類され、数はゴブリンより少ないものの、オークもまたどこにでもいるタイプの魔物だ。
これまたゴブリンほどではないが進化先が多く判明しており、おおむねゴブリンの一ランク上の魔物として冒険者ギルドではランク設定されている。
推定オークの気配が七十匹ほどある。これはつまり二種混合の集落だったということなのだろうか。これまでそのような話は聞いたことがない。
オークは何処にいたのだろう。ゴブリンを従えているような位置関係に見えるので、ゴブリンの集落からそれほど離れていない場所にいたのではないかと思うのだが。斥候が見落としたのだろうな。
ゴブリンはこちらの周囲をぐるりと囲みつつあり、オークも同様に広がってその後ろに控えている。こちらを逃がさない構えだ。上位種もいるし、なにより数が多いからそれなりに手を焼きそうだ。
ハルトが信じて私たちの命を託した重要な見張りは、未だに寝こけているのだけど、いいのかな?
ゴブリンの中に原始的な弓を持っている者が五匹、杖を持っている者が三匹。あれらが最初の脅威だな。幸い金属製の武具を持つ者は少ないようだ。これは数少ない朗報かな。
それにしても、もうすぐ攻撃が始まりそうだ。見張りが気づくまで待とうと思っていたが、もう限界だな。パーティーが壊滅してクエスト未達成となるのは面倒なのだ。
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